ジャンリーコ・カロフィーリオ「眼を閉じて (文春文庫)」

mike-cat2007-02-25



〝これまでにないクールな文体で描かれた新感覚サスペンス。〟
ジェフリー・ディーヴァーが絶賛、
無意識の証人 (文春文庫)」に続く、イタリア発の法廷サスペンス第2弾。
〝カロフィーリオは歯切れのよいアイロニーの効いた小説を書く。
 それは法廷スリラーであると同時に
 恋愛小説でもあり、哲学論文のようでもある。〟
南イタリア・バーリを舞台に弁護士グエッリエーリの〝戦い〟を描く。


グッリエーリ弁護士のもとに届いた新しい弁護の依頼、
それはかつての同棲相手による暴力とストーキングに悩まされる女性の訴えだった。
しかし、訴える相手は地元司法界の実力者の息子。
その影響力を恐れ、誰もが忌避する弁護を引き受けたグエッリエーリ。
だが、卑劣な相手側弁護士に、被告びいきの裁判官、そして政治的圧力…
予想通り、裁判は四面楚歌の様相となる中、グエッリエーリが打つ手は−


〝ディーヴァー絶賛〟の惹句にまったく誇張はない。
誘拐殺人の濡れ衣を着せられたアフリカ系住民を弁護した、
「無意識の証人」もよかったが、この作品の切れ味はそれを遙かに凌駕する。
バーリの地方検察庁で、現役のマフィア担当(!)検事補を務める作者が描く、
リアルな迫真の法廷シーンは見事ともいうべき、緊迫感に満ちている。
裁判官すら敵、という状況で、グエッリエーリの弁舌がさえ渡る。
とはいえ、勝つためだけの詭弁は弄さないのもいい。
これぞ法廷ものの真髄、正統派といった感じで、物語は進んでいく。


そして、横軸ともなるドラマには、タイトルの「眼を閉じて」がからんでくる。
スカイダイビングをモチーフに、未知の恐怖に脅えるグエッリエーリと、
ストーカー被害者マルティーナ、その後援者シスター・クラウディアがオーバーラップする。
子どもの頃から隠してきた夢。
〝でも、それをする勇気が見つけられなかったこと。
 そしてこれから先も、その勇気を決して見つけることができないだろう〟夢。
だが、事件を通じて新しい境地にたどり着いたグッリエーリは、
〝眼を閉じて〟その夢への第一歩を踏み出すことになる。
甘い感傷や、夢物語を許さない苦味のきいた皮肉な展開には打ちのめされるが、
別の形で提示される救済、そして成長に思わずグッと引き込まれるのだ。


大きめの活字の文庫で、約250ページ。
文庫で上下巻厚さ数センチ、ハードカバーなら二段組み数百ページ、
が普通のいわゆる法廷ものにしては、だいぶボリュームは抑えめだ。
だが、その中身の濃さたるや、分厚い1冊にも十分匹敵する。
解説によれば、カロフィーリオの長編第3作「過去は見知らぬ土地」は、
イタリアの文学賞を総なめにし、映画化も決定するほどの傑作だとか。
シリーズ第3作の「正当な疑い」も大ヒットしたということで、今後も楽しみな作家だ。
心して次の刊行を待ちたいな、としみじみ思うのだった。


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眼を閉じて
眼を閉じて
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ジャンリーコ・カロフィーリオ著 / 石橋 典子訳
文芸春秋 (2007.2)
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