TOHOシネマズなんばで「あなたになら言える秘密のこと」

mike-cat2007-02-13



〝彼女の名前はハンナ
 友達・家族・趣味・将来の夢──すべてなし
 どこで生まれ、何をしていたのか?
 過去のことは聴かないで〟
主演・サラ・ポーリー、監督・脚本・イザベル・コヘット。
「死ぬまでにしたい10のこと」のコンビが贈る、最新作。
ちなみに撮影監督も「死ぬまでに〜」と同じジャン=クロード・ラリュー。
共演は「ショーシャンクの空に」のティム・ロビンス、「トーク・トゥ・ハー」のハビエル・カマラ。
こころを閉ざした女性の再生を描く、感動作だ。


殻に閉じこもり、こころを閉ざし、孤独に生きる女性ハンナ=ポーリー。
何かから逃れるように、黙々と工場での仕事に励む彼女だったが、
働き過ぎを問題視され、職場から強制的に休暇を取らされてしまう。
休暇先の海辺の町で、ハンナは偶然耳にした看護の仕事に飛びつく。
それは海上に浮かぶ油田掘削基地での、火傷の男ジョゼフ=ロビンスの看護だった。
みずからのことを何も話そうとしないハンナだったが、
つらい闘病生活にも明るさを失わないジョゼフや、
繊細なシェフ、波を数え続ける海洋学者…
さまざまな事情を抱えた基地の人々に触れていく中で、次第にこころを開いていく。
そんなハンナが明かした〝過去〟とは…


ハンナの〝過去〟とは、当事者以外はすでに記憶の彼方に去りつつある悲劇。
その〝過去〟の傷が癒やされないまま、
惰性のように、一方で自らを罰するように生き続けるハンナ。
ハンナが何よりも望むのは、孤独である。
そとの世界をシャットアウトするため、彼女は補聴器のスイッチを切る。
だが、ジョゼフのユーモアや、孤独を尊重する基地の面々の気持ちが、
ハンナの気持ちをほんの少しずつ、ほぐしていく。


次第に明るさを取り戻したハンナは、
ジョゼフへの信頼からついに〝過去〟を明かす。
その〝過去〟の重さたるや、唐突に感じてしまうほど。
だが、日本のメディアではろくに紹介されなかった、その悲劇の中で、
現実に起こっていたであろう、数多くの恐ろしい出来事なのだ。


こうしたストーリーの骨子については、
そのメッセージ性も含め、ズンと重くのしかかってくるし、
サラ・ポーリーティム・ロビンスのさすがの演技はみどころ十分。
その物語がたどり着く結果そのものには、正直文句のつけようのない。
しかし、である。
そのプロセスについて見ていくと、どうにも唐突さや不自然さが目立つ。


たとえば、ハンナがこころを癒やされるところだ。
工場の職場の仲間には完全にこころを閉ざしているのに、
この海上基地の仲間には、最初からそこまで頑なな態度を示さない。
期間限定の仕事、という気楽さもあるのだろうし、その海上基地の雰囲気がそうだ、
といえばそこまでなのだろうが、自然な流れにはあまり見えない。
そして示されるあまりに重い〝過去〟。
それがこの程度で癒やされたりするのか、そのきっかけとなり得るのか。
もちろん、負った傷は癒やされて欲しいが、物語としての説得力には欠ける。


ハビエル・カマラ演じるシェフ、サイモンや海洋学者、アヒルのリサなど、
思わせぶりに登場する印象的な脇役の使い方、
そしてジョゼフが抱えるこころの葛藤についても、扱いの中途半端さが目立つ。
序盤からバラまき過ぎなくらいに伏線を張っておきながら、
終盤の展開の中では、まったく触れることなく、そのままで終わる。
特にアヒルなんて、どうしてしまうのか。
始末をきちんとつけられないなら出さなければいいのに、と思ってしまう。


あらすじとしてはとてもいい話なのに、脚本の甘さ、ということだろうか。
メッセージとしては頷けても、映画作品としては不完全さを指摘せざるを得ない。
あの悲劇については、もう一度きちんと本など読まないとな、
と考えさせられる一方で、消化不良の部分もかなり強く残った。
あの「死ぬまでに〜」のキャスト&スタッフにしては、
だいぶ肩透かしといっても、言い過ぎではないはずだ。
キャストや映像、そしていくつかのエピソードなど、
魅力も多い作品だけに、何だかもったいない結果に終わってしまったな、と思うのだ。