テアトル梅田で「世界最速のインディアン」

mike-cat2007-02-07



〝惚れた。信じた。追いかけた。
 21歳──<インディアン>という名のバイクと出会う。
 63歳──生涯の夢<世界最速>に初挑戦。
 夢に向かって走り続けた男の<実話>を描く、ヒューマンドラマ。〟
ニュージーランドの興行記録をすべて塗りかえた話題作。
スピードに魅せられ、その生涯をスピードに捧げた伝説の男、
バート・マンローの夢への挑戦を描いた、熱い熱い伝記映画である。


監督はあの傑作スリラー「追いつめられて」や、
「13デイズ」「カクテル」など幅広い才能を魅せるロジャー・ドナルドソン
豪州出身のドナルドソンが駆け出しだったニュージーランド時代、
その人生に魅せられ、ドキュメンタリーとして製作したマンローの半生。
ライフワークとして夢見てきた、長編映画化をついに達成した渾身の一本でもある。


ニュージーランド南端の小さな町、インバカーギル
40年以上も前のバイクの名車、インディアン・スカウトを駆るバートの夢は、
ユタ州のボンヌヴィル塩平原で開催される、
スピード狂たちのビッグイベント「スピード・ウィーク」で、世界最高速度に挑戦すること。
年金収入だけのバートは、手作りパーツなど、さまざまな工夫でマシンを改良に勤しむ。
念願かなってついにアメリカへの一歩を踏み出したバートだが、行く手には数々の困難が−
隣人の幼い息子トムをのぞいて、誰もが無理だと嘲笑するなか、
それでもバートは夢に向かって突き進んでいく。


プロットを聞いただけで、内容から結末まで、おおむね想像はつく。
そして、展開されるのは、その予想をさらに上回るほどとことん真っすぐなドラマ。
出てくる人間はみんな善人ばかりで、まるでおとぎ話のようだ。
しかし、そんな〝ただただ、いい話〟がやけに熱い、泣かせるのである。


最初は84キロしか出なかったバイクが、40数年の時を経て、300キロを突破する。
最新の空力技術やメーカーの協力もなく、あくまでたった一人の熱意によって…
そんな気の遠くなるほどの途方もない夢を叶える男は、
ムチャで無鉄砲で、でも決して諦めない、トンデモなじいさん。
最大の敬意を込めて〝イカれたオヤジ〟と呼びたい、熱い男だ。
それを演じるアンソニー・ホプキンスの、イカしたオヤジっぷりといったら素晴らしいの一言。
羊たちの沈黙」などのハンニバル・レクターや、
日の名残り」の哀愁に満ちた執事と並ぶ、名優サー・アンソニーの新しい代表作となるだろう。


そんなバートに惹かれた人々が、彼と夢を共有していく様がまたいい。
ふだんは迷惑ばかりかけられている隣人や、バートの最大の理解者トム、
地元のバイク野郎たちにNZの暴走族、そしてLAからユタへの道のりで出会う人々…
誰もが気づくと、その情熱に魅せられ、その夢を応援してしまう。
ジイさんの意外なプレイボーイぶりも含め、思わず目頭が熱くなってしまうのだ。


そして、わかっていても手に汗握る緊迫感、そして感動。
ボンヌヴィルの塩平原が織りなす、まさに壮大な光景を、駆け抜けるバイクは、
軽やかな爽快感と、圧倒的なスピード感にはひたすら目を見張るばかり。
バートが「5分間が一生を凌駕できる」と豪語する、その魅力が伝わってくるようだ。
さすがドナルドソン、と唸りたくなるほどの盛り上げ方に、涙が止まらなくなる。


もちろん、純粋に映画作品として考えるなら、一本調子という言い方もできるのだが、
この真っすぐな加速具合は、そのまんまバートの真っすぐさと重なるようで好感が持てる。
こまでも素直な感動な涙を伴いながら、映画は熱い大団円を迎える。
この余韻、本当にたまらない。
いい映画に出逢えたことに、感謝を口にしたくなる作品でもあるのだ。