ケヴィン・ギルフォイル「我らが影歩みし所〈上〉 (扶桑社ミステリー)」「我らが影歩みし所〈下〉 (扶桑社ミステリー)」

mike-cat2007-01-15



〝娘を惨殺された意志が生み出したクローン児。
 運命の歯車は動き出す〟
〝仮想現実ゲーム「シャドー・ワールド」の内で
 跋扈する殺人鬼の影!〟
オビだけ読んでも、何が何だか全然わからない、
近未来SF&クライムサスペンス&スリラーの登場だ。
ジャーナリスト出身の作者による、デビュー作。
〝「面白い。抜群に面白い」−池上冬樹氏〟の惹句は真実か−


クローン技術が不妊治療に利用されるようになった近未来。
シカゴ在住の医師デイヴィスは、そのクローン推進派の権威。
クローン反対派との軋轢は続いていたが、日々の診療に邁進していた。
そんなさなか、愛する娘アンナ・キャットが何者かに惨殺された。
しかし、警察の捜査は進展しないまま、事件は迷宮入り。
レイプ殺人犯を追って、デイヴィスは最後の手段を選んだ。
それは、犯人の遺留品からDNAを採取し、クローン児を作り出すことだった−


プロットはまさしくトンデモ本、というかいわゆる〝バカミス〟そのものだ。
未詳の犯人を追うために、クローン児を育て、手がかりにする。
「よくもそれだけバカバカしいことを…」
そう思って読み出すのだが、これがまたあなた、なかなか読ませるのだ。
クローン技術をめぐって、キリスト教保守派の暗殺者は登場するし、
〝シャドー・ワールド〟と呼ばれるヴァーチャルリアリティのネットゲームも、
物語の舞台として大きな役割を果たしてみせる。
医師デイヴィスの家族のドラマも描写されれば、
当のクローン児が抱える心理的葛藤まで細やかに描かれるという豪華絢爛さ。
それだけ多くの要素を盛り込みながらも、まとまりよく、一気の展開で読ませる。


現実の世界においても賛否両論のクローン技術についても、
さまざまな問題点を内包させつつも、その可能性や弊害を取り混ぜ、
もし、その技術が現実化されたら…、という仮想の近未来を描き出す。
クローン児とは何か、ましてや〝ある目的〟のために生み出されたクローン児は…


物語で重要な役割を果たす〝シャドー・ワールド〟も面白い。
仮想世界でありながら、ごくリアルに再現された世界。
そこにおいて、人は現実の世界とはひと味違う人生を〝プレー〟する。
だが、ゲームの中で夢を果たすだけが、その楽しみ方ではないのだ。
〝トゥルー・トゥ・ライフ派〟といわれる、
現実の生活とうり二つの人生を、ゲームの世界に忠実に再現するファンもいる。
では、現実世界のシリアルキラーは、ゲームの世界で何をするのか?


時に哲学的に、時にサスペンスフルに、時にスプラッタ顔負けに…
多彩なアプローチで迫り来るドラマのパワーは、まさに一級品のエンタテインメント。
何ともいえない後味の悪さに満ちたラストまで、
ページをめくる手が止まらない、止めたくない、といったところか。
論理の破綻や、倫理的な問題も確かにあるのだが、それはそれ。
この面白さの前では、堅いこといいっこなし、と許してしまいたくなるのだ。
まさに池上冬樹氏のいう通り、「面白い。抜群に面白い」1冊なのである。


Amazon.co.jp我らが影歩みし所〈上〉我らが影歩みし所〈下〉


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我らが影歩みし所 上
ケヴィン・ギルフォイル著 / 伊藤 真訳
扶桑社 (2006.12)
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我らが影歩みし所 下
ケヴィン・ギルフォイル著 / 伊藤 真訳
扶桑社 (2006.12)
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