テアトル梅田で「あるいは裏切りという名の犬」

mike-cat2007-01-11



遅ればせながら、ことしの初映画。
〝かつて親友だった
 同じ女を愛した
 今はただ敵と呼ぶのか…
 ──実話に基づく、激しくも切ない宿命の物語──〟
原題は〝36 QUAI DES ORFEVRES〟
シテ島オルフェーブル河岸36番地、すなわち 「パリ警視庁」を舞台に、
愛と友情、裏切り、そして復讐が複雑にからみ合うフィルム・ノワールだ。
フランス版アカデミー賞ともいえるセザール賞では、
作品、監督、脚本に主演男優、助演男優、助演女優など、
数々の部門でノミネーションを受けるなど、評判は上々。
ロバート・デニーロ製作、「チョコレート」のマーク・フォースター監督で、
ハリウッドでのリメイクもすでに決まるなど、話題の多い作品だ。


「愛を弾く女」「八日目」「橋の上の娘」のダニエル・オートゥイユ
シラノ・ド・ベルジュラック」の国民的俳優、ジェラール・ドパルデュー
「夜よ、さようなら」「ぼくを葬る」のダニエル・デュバル、と渋いオヤジ揃いの布陣に、
かのブリジッド・バルドーのライバルでもあったという、
「サレムの魔女」などの大ベテラン、ミレーヌ・ドモンジョ
そして「レインマン」のヴァレリア・ゴリノが成熟した妖艶の美をつけ加える。
まさに、オヤジと熟女の豊穣な味わいに満ちたドラマである。


パリの街は、凶悪な連続現金輸送車強奪団の出現に揺れていた。
しかし、それを追う警察も一枚岩ではなかった。
探索出動班<BRI>のレオ・ヴリンクス警視=オートゥイユと、
強盗鎮圧班<BRB>のドニ・クラン警視=ドパルデュー。
正義と仲間を重んじるヴリンクスと、ただひたすらに権力を追うクラン。
現在はヴリンクスの妻であるカミーユ=ゴリノをめぐって争ったかつての親友は、
次期警察長官を座をめぐって、反目し合うライバルとなっていた。
熾烈な争いの末、強奪団の捜査が佳境にさしかかったその時、事件が起こる。
卑劣な裏切りと策謀、そして、警察を揺るがすスキャンダル…
ヴリンクス、そしてクランは、否応なく、運命の濁流に呑まれていくのだった−


80年代に実際に起こった警察スキャンダル、ロワゾー事件をもとに、
サスペンスフルな展開と、深みのあるプロットを練り上げたのは、
かつて警察のテロ対策班に身をおいたこともある監督・脚本のオリヴィエ・マルシャルに、
その事件の主役として、陰謀に巻き込まれたドミニク・ロワゾー(共同脚本)だ。
撮影監督ドニ・ルダンも、光と影のコントラストに彩られた、
スタイリッシュな映像で、ドラマの質感をよりいっそう高めていく。


そして、この映画の最大の魅力は、前述の通り、匂い立つほどの〝オヤジ〟である。
陰謀に巻き込まれ、愛するすべてのものを失うヴリンクス=オートゥイユの、
深い哀しみ、そして静かな復讐の炎を刻み込むような、顔の皺。
殺してやりたくなるくらいの卑劣漢クラン=ドパルデューの卑しい表情。
ベテラン刑事エディを演じたダニエル・デュバルも含め、
このオヤジどものカッコよさといったら、いくら言葉を連ねても表現しきれない。
オヤジ好きの女性だったら、もう感涙ものといってもいいんじゃなかろうか。


一気のアクションで観客を物語世界に引きずり込む序盤から、
終盤じわじわと〝効いてくる〟数々の伏線に男たちのドラマ、
そして、深い余韻を残すラストまで、
メリハリを効かせつつも、中ダレの一切ないテンポのよさも特筆もの。
シビれる傑作で、ことしの映画始めができたことを、こころから感謝したくなる。
幸先のいいスタート。これは期待できるかも、と胸を膨らませ、きょうはおしまい♪