シネリーブル梅田で「リトル・ミス・サンシャイン」

mike-cat2006-12-25



〝全米が“負け犬家族”に大喝采!〟
サンダンス映画祭で熱狂的な支持を受けた、
機能不全家族〟のロードムービーがいよいよ上陸。
おかしくって、ちょっと切ない。
でも、何だか胸が熱くなるハートウォーミング・コメディだ。


主人公はアルバカーキ在住のフーヴァー一家。
人生何でも「勝ち組・負け組」を意識しているのに、自身は負け犬のリチャード、
家族の精神的支柱だが、ちょっと生活疲れも目立つ妻シェリル、
世を拗ね、ニーチェよろしく沈黙の誓いを立てた長男ドウェインに、
幼児体形のメガネっ子にも関わらず、ミスコン女王を夢みる長女オリーヴ、
老人施設を追い出された放蕩爺さんの〝グランパ〟と、
シェリルの兄で、自殺未遂したての自称「アメリカ一のプルースト学者」フランク。
リチャードの唱える「成功への9段階プログラム」の出版が暗礁に乗り上げ、
経済的困窮はますますどつぼにはまっていくばかり。
そんな最中、リトル・ミス・サンシャイン・コンテストの本戦にオリーヴが繰り上げ出場。
オンボロのミニバスに乗って、ニューメキシコからカリフォルニアに向かった一家だが…


長いあらすじになってしまったが、
このトンデモ家族の面々こそ、この作品の持ち味のひとつ。
ということで、出演陣にも、クセのある演技派を取りそろえたようだ。
リチャードには「恋愛小説家」「アンノウン」のグレッグ・キニア
シェリルには「シックス・センス」「イン・ハー・シューズ」のトニ・コレット
ドウェインには「卒業の朝」「キング 罪の王」のポール・ダノ
オリーヴには「サイン」のアビゲイルプリンストン
グランパには「ガタカ」「摩天楼を夢みて」のアラン・アーキン
そしてフランクには「40歳の童貞男」のスティーヴ・カレル
この作品が注目を集めるきっかけとなった、
「40歳の〜」で一気に人気急上昇のカレルはもちろんのこと、
どの俳優もその味を存分に発揮し、絶妙の相乗効果を挙げている。


アビゲイルプリンストンも、子役臭控えめで自然な感じがいい。
後半で描かれる、ページェント(ミスコン)の異常さとのミスマッチ感が印象的だ。
あのジョンベネを思わせる、ある種のフリークスに見える少女たち。
不自然なメイクに、不自然な体形、セックスを強調した衣装。
引きつった笑いで大人に媚びる少女たちの中で、
(それなりに問題はあるのだが)ごく普通の子供らしさが際立つ。


勝ち組負け組を強調され、不安に陥るオリーヴをグランパが励ます場面がいい。
「本当の負け犬は、負けることを恐がって挑戦しないやつのことだ」
現実世界でこれを言い切ってしまうと、それはそれで遠ぼえにもなりかねない。
だが、物語の世界くらい、そんな気持ちの部分を大事にしたいな、と。


監督ジョナサン・デイトンヴァレリー・ハリスはCM出身。
どうしても色目で見てしまいがちだが、
映画としてのまとまりと、センスのよさのバランスがとてもいい。
ポスターにも描かれた、バスに乗り込むシーンや、安食堂での食事風景、
ポール・トーマス・アンダーソンを思わせる、戯画めいた構図が独特の風合いを醸し出す。


価値観的に「それで本当にいいのか?」みたいな部分はないわけじゃない。
だが、そういう部分も込みで、愛すべき作品なのかもしれない。
小品は小品だが、気持ちのいい快作、といったところか。
何だかセンチメンタルになりがちな年末にぴったりな、1本だったと思う。