渋谷シネクイントで「アンノウン」

mike-cat2006-12-06



〝俺が誰なら生き抜ける
 記憶を失った5人の男たち−
 誰が誘拐犯で、誰が人質なのか?〟


荒野の廃棄工場で目覚めた、5人の男たち。
電子錠で閉ざされた工場、縛られた男に乱闘、銃撃の後…
いったい、何が起こったのか、そして、自分たちは何者なのか?
だが誰ひとり、何ひとつ覚えがない。事故で5人は記憶を失っていた。
そんな中、かかってきた1本の電話。
判明したのは、誰かが誘拐犯で、誰かがその人質ということ。
脱出、そしてタイムリミットに向けて、5人の駆け引きが始まった−


〝目覚めたら…〟という、ソリッド・シチュエーションで思い起こすのは、
もちろん、現在パート3が公開中の「ソウ」シリーズだろう。
パクリとまではいかないが、
イタダキ感はやや強めに漂う設定のタイムリミット・スリラーだ。
しかし、工場内の5人には個性的な面々をそろえるなど、
単なる二番煎じには終わらない、それなりの意図は見えてくる。


ひとつのテーマとなるのは、
〝不詳〟の人物となった時、その人間の本質は現れるのか? という部分だろう。
ひとは誰しも、それぞれの属性というものを背負って生きている。
職業はその典型的な例だし、親子や兄弟など、周囲との関係の中で生きている。
しかし、そういったものがすべて取り払われたら…
それが、とんでもない過酷な状況で試される。興味深い設定である。


その〝本質〟を試されるのはこの5人。
「パッション」「オーロラの彼方へ」のジム・カヴィーゼル
「恋愛小説家」「ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター」のグレッグ・キニア
プライベート・ライアン」「25時」「グリーン・マイル」のバリー・ペッパー
マトリックス」「MEMENTO」のジョー・パントリアーノ
TVシリーズ「シックス・フィート・アンダー」のジェレミー・シスト


ジェレミー・シストに関してはあまり記憶がないが、風体は怪しい。
まあ、潤んだ瞳の二枚目、カヴィーゼルを除いては、
どいつもこいつも、一癖も二癖もあるような連中ばかりである。
となると、逆にカヴィーゼルこそ怪しい、なんて感覚も働いたりして、
5人の駆け引きの行方は、ますます気になってくる、という仕組みである。


中盤までの展開はいまひとつタルい感は否めないが、
記憶が戻りつつある終盤にかけての一気の流れは、なかなかに濃い。
まあ、記憶という都合のいい題材を扱っているだけあって、
ちょっとご都合主義にも傾くものの、緊迫感は失わない。
長編では初の脚本を手がけたマシュー・ウェイニーの手腕は悪くない。
1作目の「ソウ」の衝撃には及ばないが、
このテのスリラーがお好きな人のツボはきちんと抑えていると思う。


映画の中にも登場する監督のサイモン・ブランドは、コロンビア出身。
エンリケ・イグレシアスジェシカ・シンプソンのMTVや、
ペプシBMW、CMを経て、この映画が長編デビュー。
「バラエティ」誌の「ハリウッドで最も影響力のあるラテン系40人」の1人だとか。
構図などには光るものを見せながら、
MTV系にありがちなカチャカチャしたカット割りや、
不必要に加工した映像が少ないのも好感が持てるところだ。
傑作、という言葉は使いづらいけど、
観て損のない1本とはいえそうな佳作ではあるんじゃなかろうか。