シアターN渋谷で「ホステル」
ということで、ひさしぶりの東京なので、映画を観る。
旧ユーロスペースがこんな名前になっていたり、
気付いたら知らない名前の映画館がまたまた増えている。
まずは大阪未公開でありながら、東京では終了間近の、
全米初登場No.1のスプラッタ・ホラーから手をつける。
〝すべてが切断される。〟
「シー・ノー・デビル」の予告による分類だと、
「ソウ」「ホステル」というのは〝拷問系ホラー〟となるそうだ。
「ソウ3」は未見だが、それってどうなの?と、思いつつ本編を待つ。
物語が幕を開けるのは、アムステルダム。
快楽を求め、ヨーロッパを旅する、アメリカ人のパクストンとジョッシュ、
そして、アイスランド人の自称〝快楽の帝王〟オリーの3人組。
次に向かうのは「ヤリたい放題」との噂のスロバキアのブラティスラヴァ。
ユースホステルにたどり着いた3人は、期待以上の事態に大感激する。
しかし、その快楽の裏に潜んでいたのは、とんでもない罠だった。
ホラー映画の黄金律といえば、「13日の金曜日」などでもお馴染み、
セックスに明け暮れる若者が、次々と殺戮されていく…、という図式。
この映画でも、ブラティスラヴァでセックス三昧! と浮かれる3人組が、
次々と恐怖の罠に絡め取られ、酒池肉林から阿鼻叫喚へ墜ちていく流れとなる。
スラヴ系美女のナターリア、スベトラーニャと同室の幸運に恵まれただけでなく、
(このナターリアがまた、そそること請け合いの、いい感じのヤラしさ…)
ホステルのスパ(混浴!)には、アメリカ人旅行者目当ての地元美女が…
「こいつらいいメに会いやがって」という嫉妬に駆られた観客が、
悲鳴を上げる様を見て留飲を下げるという、侘びしくも世の真理を突いた構造だ。
話題を呼んだ残虐描写については、微妙かな、という感じ。
目を背けたくなるような描写はもちろん盛りだくさんなのだが、
だからといって、見たこともないような残虐さ、という感じはさほどない。
どこまで見せ、どこを見せないことで観客の恐怖を煽るか、
というさじ加減についても、悪くはないけど、特別巧いという気もしない。
ところどころでやり過ぎの場面もあって、予算の問題か安っぽくさも際立つ。
日本人のアーパーねえちゃん(死語だな、これも)も登場するのだが、
この日本語といい、安っぽい描写といい、差別感バリバリで、あまり気分はよくない。
特別出演している三池崇史(それもヘンな役で…)なんか、
せめてもう少しサジェスチョンできなかったのか、といぶかってしまう。
しかし、そうした微妙感を補って余りある魅力がこの映画にはある。
このスロバキアの街に潜む恐怖の設定、
元ネタは監督・脚本のイーライ・ロスがネットで見つけたタイの都市伝説だという。
これをクエンティン・タランティーノに話してみたら、
「すげえじゃん! 脚本書いちゃえ書いちゃえ」みたいなノリで企画が進行したとか。
これをタイあたりでそのまんま作るのではなく、
スロバキアという、さもありなん的な土地で、
バカで傲慢なアメリカ人の旅行者を主人公にというあたりが絶妙だ。
ざらついた映像に浮かび上がる埃っぽい中欧の田舎町。
荒んだ目をしたストリート・キッズに、くたびれきった街の大人たち…
そんな中で酒池肉林を謳歌するアメリカ人、というのがあまりにシュールすぎる。
町ぐるみのビジネスに大金を支払う顧客たちの表情も興味深い。
三池崇史はともかくとして、どこか憂いをたたえるドイツ人や、
カネにものをいわせる傲慢なアメリカ人の病んだ姿が、強烈に訴えかけてくる。
また、サービスを享受するための金額も、その対象次第で大きく変わる。
〝アメリカ人の値段〟が、群を抜いて高いのは、やはり…という感じだ。
終わってみれば、血みどろ地獄より、こちらの方が印象に強く残る。
エンドクレジット。通常の映画では日本語字幕が表示されない、
「これはフィクションうんぬん〜」のくだりが字幕に表れると、何ともいえない気分だ。
酒池肉林の場面も含め、思わず真に受けそうなリアルさも否定できないからこそ、
こうした字幕をつけてしまう、日本の配給会社の気遣いが、強く伝わってもくる。
何でも、イーライ・ロスは「ソウ」シリーズに感銘を受け、「ホステル2」も製作中。
ティーザー予告はもう観ることができるらしい。(→http://www.hostel2.com/)
スティーヴン・キング原作の「cell」、
リチャード・マシスン原作の「The Box」など、企画は次々と舞い込んでいるとか。
前作「キャビン・フィーバー」も含め、要チェックといえそうだ。