梅田ガーデンシネマで「マーダーボール」

mike-cat2006-11-07



〝もっと前へ、もっと強く。〟
アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート。
四肢麻痺や切断などの障害を持つ選手たちが、
まるで戦車のような車いすに乗ってプレーするウィルチェアラグビーの、
激しく、熱い世界に密着したスポーツ・ドキュメンタリー。


激しい衝撃音とともにぶつかり合う車いす
その激しさから〝マーダー(殺人)ボール〟とも呼ばれた、
車いすラグビーの世界で、世界の頂点を目指す男たちがいた。
18歳の時、交通事故で四肢の麻痺を負ったアメリカ代表のエース、マーク・ズパン。
そして、ポリオで四肢に麻痺を生じたカナダ代表の監督、ジョー・ソアーズ。
ソアーズは、体力の低下を理由にアメリカ代表を追われ、祖国に背を向けた男でもある。
2002年、スウェーデンでの世界選手権、そして2004年アテネ五輪
2つのビッグタイトルをめぐる戦い、そして選手たちのたどってきた軌跡を、
熱く、激しく、そして何より人間くさく切り取った、熱いドラマがそこにある−


はっきりいって、アドレナリン出まくりの、やたらとアツい映画である。
確かに感動的な部分はあるが、決して感傷的ではない。
障害者スポーツを取り上げたドキュメンタリー、と聞くと、
〝かわいそうな障害者が頑張る姿〟というのがパターンになりがちだが、
この映画に限っては、そんな〝上からの視線〟とはいっさい無縁なのだ。


障害を持っていても、選手たちは決して憐れまれる存在ではない。
〝障害者〟という枠に閉じ込められ、
社会の日陰で生きることを余儀なくされた弱者とは大きく違う。
そこに描かれるのは、障害という大きな壁を、
苦しみながらも受け止め、乗り越え、人間くさく、熱く生きる男たちの姿だ。


アルミ製のホイール、バンパーに刻み付けられた傷やへこみの激しさは、
そのまま、押しつけられた障害者像を否定する、シンボルでもある。
気の毒がられることなく、強く、タフに、しかし、変にイキがることもなく…
障害を負っても、〝普通に〟生きる彼らは、激しいスポーツだって、全然平気だ。
彼らの持つ障害の原因、そして影響、リハビリなどについても語られる。
誰でも気になる、セックスの話も当然のこととして、取り上げられる。
「リハビリはマスターベーションから始まるんだが、ペンよりうまく握れたぜ」
そんな赤裸々な打ち明け話から、彼らのナンパの手口まで…
障害はあっても、あくまでもどこにでもいる普通の〝彼ら〟なのだ。


もちろん、その域にまで達するのは容易ではない。
リハビリ病院での映像に、リハビリ時代を振り返る彼らの声が重なる。
なぜ自分だけが…という不条理感、そして無力感、
愛する人々に当たり散らし、いきどころのない怒りに駆られる毎日…
苦悩の日々を乗りこえ、現状を受け入れ、前に進んでいく。
そして、ついに見つけた大きな目標が、選手たちを輝かせる。


一生のけがを負わせてしまった、かつての親友との友情を取り戻すズパンや、
〝裏切り者〟となじられながらも、打倒アメリカに突き進むソアーズは、
ドラマ以上にドラマチックな〝登場人物〟として、〝物語〟を熱く盛り上げる。
最終決戦ともなったアテネ五輪の激戦の果ての結果は、
そのまま、人生の切なさややるせなさ、あっけなさみたいなものを感じさせる。


2つのタイトル、2人のライバルを中心にすえたテンポのいい構成、
血がたぎってくるような音楽、そして迫力の映像…
演出のテクニックも絶妙としかいいようがない、まさに傑作。
ことし屈指の〝面白さ〟に、最後まで興奮しっぱなしの85分だった。