梅田ガーデンシネマで「サムサッカー」

mike-cat2006-10-05



〝フツーに心配な僕のミライ〟
親指をしゃぶるクセが抜けないティーンエイジャーの、
漠然とした不安や日々の事件、そして成長を描いた青春ストーリー。
主人公のサムサッカージャスティンには、
ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)に輝いたという新鋭ルー・プッチ。
脇を固めるのは、「マトリックス「スピード」キアヌ・リーヴスを始め、
ヴィンス・ヴォーン(「サイコ」=98年版=、「ドッジボール」)、
ティルダ・スウィントン(「オルランド」「ナルニア国物語」)、
ベンジャミン・ブラッド(「トラフィック」「デンジャラス・ビューティー」)、
ヴィンセント・ドノフリオ(「MIB」「ザ・セル」)などなど、豪華な俳優たちだ。
監督はCMやグラフィック・デザイン出身のマイク・ミルズが初メガホンとなる。


オレゴン郊外にすむジャスティンは、
おしゃぶりがやめられない、ちょっと風変わりな17歳の少年。
ガールフレンドに進学、そして将来のこと…、
漠然とした不安に包まれながら、何となくな毎日を過ごしている。
ガールフレンドにもいえない、恥ずかしいおしゃぶりぐせを治すため、
なじみの歯科医ペリー=リーヴスに催眠術をかけてもらうが、かえって不安は増すばかり。
結局は医者にかかり、ADHD注意欠陥多動性障害)と診断され、
薬物療法で目覚ましい改善を遂げたジャスティンだが…


おしゃぶりという設定に加え、アーティスト系による初監督作品とあって、
かなり風変わりな映画を想像していたのだが、意外なほどフツーの成長物語だ。
おしゃぶり自体はもちろん、そこまでフツーとは言えないのかもしれないが、
そのクセを克服しようとする中で、さまざまな経験を積み、
何かに目覚めていく、というプロセスは、まさしく王道の青春物語だろう。


映画の中で、ジャスティンのよき相談役でもあった、ペリー医師がこう話しかける。
「大切なのは、答えのない人生を生きる力、だと思うよ」
そういうペリー自身も、ちょっと前まで自分の道を見つけられずにいたのだ。
そして一方では、出来過ぎた弟から、こう切り出される。
「みんな兄貴ばかり心配しているから、僕はしっかりしないといけない」
そして、ガールフレンドのレベッカから投げかけられる残酷な言葉。
「あなたなら、無難だと思ったの」


そんな経験を通して、ジャスティンはすこしずつ変わっていく。
風変わりな自分を受け容れ、その中でアイデンティティを確立する、
若さゆえの傲慢さに気付き、他人へのいたわりや気遣いを覚える、
悩んでいる、苦しんでいるのはみんな同じ、と理解する…
多くのひとが10代、20代で経験していく、成長の一段階である。
(もちろん、それを経ずに稚拙なままで生きるヒトも少なくないが…)


ティルダ・スウィントンの本当の息子といわれても不思議に思わないルー・プッチは、
そんなジャスティンの姿を適度に美しく、適度にダメダメに生き生きと演じる。
それを支える助演陣の演技にも引っ張られ、その姿はとてもリアルに映る。
ほかにも、ドラッグ依存症のTVスターを演じる、
ベンジャミン・ブラッドの人相がやけに悪かったり、
ヴィンス・ヴォーンがやたらとノリノリでアホな教師役をやっていたり、
〝少年の母〟に戸惑いを見せるスウィントンがなかなか興味深かったり、
キアヌのどうも妙な人物だったり、と楽しみどころも多い佳作。
地味だけど、何だか記憶に残りそうな、そんな作品だったと思う。