TOHOシネマズなんばで「イルマーレ」

mike-cat2006-09-25



22日オープンのTOHOシネマズなんば、初見参だ。
月曜のレイトショーとあって、劇場ロビーはやや人もまばら。
六本木なんかと比べ、凝った作りではないが、シンプルもまたよしとする。
1200円のレイトショーやプレミアスクリーン、
ややバラエティを持たせた上映ラインナップ、とようやく難波の映画事情も、改善された。
ただ、この日の2番スクリーンは、ロマンス映画観るにはやや大き過ぎかも…
スピーカーが低音を重視するあまり、かなりこもった音になっているのも気になった。


それはともかく、大傑作「スピード」以来12年ぶりとなる、
キアヌ・リーヴス×サンドラ・ブロックの共演作品は、
韓国映画イルマーレ」のハリウッド版リメイクだ。
過去と現在をつなぐ、湖畔の家の〝時の扉〟というプロットをもとに、
プルーフ・オブ・ライフ」のデヴィッド・オーバーンが脚本をリライト、
アルゼンチン出身のアレハンドロ・アグレスティがメガホンを執った。


舞台はシカゴ郊外の湖のほとりに建つ、ガラス張りのレイクハウス。
市内の病院勤務が決まり、レイクハウスから市街地に引っ越すことになった
ケイト・フォースター=ブロックは、郵便受けに次の住人への手紙を残す。
その手紙を受け取ったのは、建築家のアレックス・ワイラー=リーヴスは、
手紙の奇妙な部分に気付く。そう、それは未来の住人からの手紙だったのだ。
過去と未来を結ぶ郵便受けでの手紙のやりとりを通じ、2人は心を通わせていく−。


かなり、期待の大きい作品だった。
タイムトラベル・ファンタジーと恋愛はもともとが相性のいい組み合わせだし、
予告などを観る限りでは、ガラス張りのレイクハウスやシカゴの街並みなど舞台装置も◎。
肥満がこわいキアヌの体も、とりあえずダブついていないようだし、
サンドラの髪形やファッションもあまり年齢を感じさせない感じで、楽しみだった。


事実、序盤はかなりいい。
開始からわずか10分足らずで、いきなりネタが割れてしまう作りには問題もあるが、
手紙を通じて、2人の心が惹かれあっていく過程はロマンチックそのもの、
犬のジャックという〝小道具〟の使い方も、思わず観るものをキュンとさせてくれる。
特に、シカゴの街並みをうまく使った数々のシーンには、
もしかしたら「あなたが寝てる間に」「トゥー・ウィークス・ノーティス」を越える、
サンドラの恋愛もの代表作の予感すら、感じさせるような部分もあった。
悲劇へのかすかな予感を孕ませながらの進行にも、ハラハラさせられ、
最後のオチをどうまとめるのか、の手腕にますます期待が膨らんでいくのだ。


しかし、なのだ。
手紙を通じてしか触れ合えない、時を越えた恋愛のもどかしさこそが、
この映画のロマンチックさの源泉でもあるにもかかわらず、
あまりにも安易に2人は、顔を合わせることになってしまう。それでいいの? という感じだ。
引っ張って、引っ張って、ついに…、
というカタルシスが奪われたことで、この映画は後半一気に盛り上がる機会を失う。


加えて、後半は微妙に話の流れがもたつく。
偉大な建築家でありながら、家庭を顧みなかったアレックスの父や、
ケイトのかつての婚約者とのエピソードが、必要以上にクローズアップされ、
ストーリーに深みや広がりを持たせるというより、焦点がぼやけさせる効果をもたらす。
(もちろん、必要性やそれなりの意味があるのもわかるのだが…)


終盤、ちょっと消化不良の気配を感じさせたあたりで、ついに最後のネタとなる。
しかし、これがかなり強引。
ジェーン・オースティンの「説得」を使ったあたりはまずまずのアイデアと思うし、
タイム・パラドックスどうこうなら、あくまでロマンス映画ということで許しもするが、
そのネタにたどり着く、最後のまとめ方がどうにも安直で乱暴に感じられるのだ。


最初にネタを割っておきながら、何のひねりもなく、
それでいて、丹念にエピソードを積み上げていくでもなく、
その最初から予想された通りの結末で、エンドクレジットとなってしまう。
揚げ句の果てに、物語のキーパーソン(ドッグ?)でもある犬のジャックもぞんざいな扱い。
これでは、最後に向けて溜め込んでおいた涙を、どうすればいいのか、わからなくなるのだ。


まあ実際のところ、こんなに不満を並べるほど、ひどい映画でもないし、
もともとそんなに期待していなければ、これでもいいのだろう。
でも、サンドラ×キアヌでこのプロット、ロマンチックな舞台装置、さらに犬も使っておいて、
こんな「作っただけ」の映画では正直、脚本家と監督の手腕に疑問を投げかけるしかない。


何でもこの、時を越えた手紙の交流というネタ、ジャック・フィニィの
ゲイルズバーグの春を愛す (ハヤカワ文庫 FT 26)」に収録されている「愛の手紙」にも使われているアイデアとか。
韓国版「イルマーレ」はどうにも食指が動かないけど、
フィニィの小説ででも口直ししようかな、なんて思ってしまったりもするのだった。