ネルソン・デミル「ナイトフォール(上) (講談社文庫)」「ナイトフォール(下) (講談社文庫)」

mike-cat2006-09-17



ネルソン・デミル待望の最新作!
〝全米ベストセラーNO.1 航空機墜落の驚愕の真相〟
〝タフな減らず口ヒーロー ジョン・コーリーの活躍〟
というわけで、「プラムアイランド 上 (文春文庫 テ 6-12)」「プラムアイランド 下 (文春文庫 テ 6-13)
王者のゲーム(上) (講談社文庫)」「王者のゲーム(下) (講談社文庫)」に続く、第3弾ということになる。


もちろん、前作で登場したケイト・メイフィールド(妻、として…)や、
過去2作でお馴染みの〝くそったれ〟テッド・ナッシュの名前も出てくるから、
読んでおけばまた楽しみも一興とはいえるが、
たとえ過去2作を読んでいなくても、この小説の醍醐味は十分に味わえる。
まあ、読んでしまったら過去2作を読みたくなること請け合いだが…


元NY市警で、現在ATTF(連邦統合対策特別機動隊)に所属するコーリーが、
今回挑むのは、1996年7月に実際起こったTWA800便墜落事故にまつわる謎、である。
妻のケイトに連れられ、5年後の追悼式典に訪れたジョン・コーリーは、
以前この事故の捜査に携わったケイトがほのめかしたのは、
すでに〝機器の故障〟として公式見解が出されたこの〝事故〟への疑念。
だが、〝刑事魂〟に火をつけられ、捜査に手をつけたコーリーに圧力がかかる。
いったい、何が起こったのか、そして何が隠されようとしているのか−


上のリンクをたどってウィキペディアを見てもらってもわかる通り、
このTWA800便墜落事故というのは、小説同様に機器の故障ということで一応の決着はついているものの、陰謀説も根強く残っているいわくつきの事件だ。
それをあの9・11以後の視点からもう一度掘り起こし、小説に仕立て上げている。
物語の中ではあのWTC(世界貿易センター)も健在だし、あの悲劇は起こっていない。
ただ、93年に起こったWTC北タワーでの爆破事件、
そしてこのTWA機の墜落を重ね合わせることで、
9・11の悲劇がなぜ起こったのか、本当に防げなかったのか、
を、小説を通して訴えかけられているような気がしてならない。
WTCが場面に登場するたび、こころに突き刺さるような痛みが走る。
その度に、福井晴敏のオビにもある
〝あるいは「悲劇」は秘せげたかもしれない防げたかもしれない−〟が頭をよぎるのだ。


もちろん、そうした社会的視点だけが特長ではない。
題材は非常にシリアスな問題でも、娯楽としての面白さは抜群だ。
中でも、TWA機墜落にも〝ザプルーダー・フィルム〟が存在していた、という設定が絶妙だ。
過去に葬られていた〝事件〟が、掘り返され、さまざまな何かが動き出していく。
ネルソン・デミルといえば、読み出したら止まらない、が決まり文句だが、
この本も前後編合わせて900ページ近いボリュームを一気読みは必至だ。
まさしくジェットコースターのように展開していく中で、
シニカルなジョークを連発しながら、グイグイと真相に迫っていくコーリーの活躍に、
笑いを交えつつもハラハラドキドキさせられ通しで、夢中になってページをめくってしまう。


大傑作「ゴールド・コースト〈上〉」「ゴールド・コースト〈下〉」にも通じる、
NY・ロングアイランドの描写もファンとしては何ともうれしいし(ジョークもあり)、
超音速漂流 (文春文庫)」でも見せた、航空ミステリーとしてのクオリティもポイントだ。
大傑作ぞろいのデミルとしては、最高傑作というには意見も分かれるだろうが、
ある意味での集大成という表現は決して間違いではないだろう。


少々ネタバレで恐縮なのだが、あ然とするようなラストもある意味秀逸だ。
そこにも、デミルがこめたかったメッセージのようなものが感じられてならない。
そして、解説を読んで、また胸は膨らむのだ。
ことし11月、本書の続編〝Wild Fire〟がアメリカで刊行されるという。
この小説で描かれる結末の、その後の世界をデミルはどう描くのか。
訳者の白石朗氏には、ぜがひにも早く翻訳して欲しい、と心から望む次第なのだ。


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ナイトフォール 上
ネルソン・デミル〔著〕 / 白石 朗訳
講談社 (2006.9)
通常24時間以内に発送します。
ナイトフォール 下
ネルソン・デミル〔著〕 / 白石 朗訳
講談社 (2006.9)
通常24時間以内に発送します。