テアトル梅田で「カクタス・ジャック」

mike-cat2006-09-01



2005年のメキシコMTVアワード最優秀作品賞するなど、
メキシコで大ヒットを記録した、クライム・コメディ。
原題は〝MATANDO CABOS
直訳するなら、「カボス殺し」といったところか。
メキシコシティを舞台に、街の大ボスのカボスの誘拐をめぐる一騒動が展開される。


怒らせたら誰よりも怖い街の大立者、カボスの下で働くジャックは、
そのひとり娘ポリーナとコトに及んでいるところを目撃される。
こっぴどく痛めつけられたジャックだが、懲りずにカボスのもとへ。
しかし、ひょんなきっかけから、カボスをトイレに押し込むことに。
一方、カボスの幼馴染みで掃除係チーノは、カボスに成りすまして会社の外へ。
勘違いと誤解が横行する中、とんでもない誘拐事件が起こってしまった−


クドいぐらいに濃い登場人物たちが絡み合い、迷走を極めていくドラマは、
例えるなら、クエンティン・タランティーノガイ・リッチーの映画を、
足して2で割って、少し薄めたようなイメージ、といったらいいのだろうか。
タランティーノほどのえげつなさも、リッチーほどのスタイリッシュさもないが、
このカジュアルさはこれで、何となくラテン系の楽天的な側面がよく出ている気がする。
やや中ダレする部分も否定できないが、退屈させないだけの魅力は十分ある。


濃いキャラクターたちに、なかなかのパワーが感じられる。
主役でもあるジャックとムドは、とにかくカルいニイちゃんたちだが、
その薄っぺらさがかえってストーリーとその他の登場人物を引き立てる。
ちなみにジャックを演じるトニー・ダルトンとムドを演じるクリストフは、
ともにアレハンドロ・ロサーノ監督との共同脚本も手がけている。


何ともいえない味を発揮するのは、
かつて一世を風靡した元覆面プロレスラーのルベンだろう。
中尾某を思わせる風貌の舞台俳優のホアキン・コシオがやたらといい。
単なるバラエティタレントに成り下がった中尾某の代わりに日本に連れてきてもいいかも。
その用心棒の「人喰い」トニーも、やたらと笑われてくれるし、
ボッチャ役の「トレインスポッティング」のラウル・メンデス、
ニコ役には「マイ・ボディガード」「アモーレス・ペロス」のグスターボ・サンチェス・パラ、
ポリーナ役には「アマロ神父の罪」のアナ・クラウディア・タランコンと、
いい雰囲気の俳優を、うまい具合に配置したな、という印象が非常に強い。


こうしたとんでもない連中のとんでもない迷走劇といい、
物語全体に醸し出される不条理感は、いかにもメキシコそのもの。
アモーレス・ペロス」のような乾いた哀しみをたたえたメキシコもいいが、
こういう何となくカラッと明るくおバカだけど、どこか不条理というのも悪くない。
傑作というにはやや微妙ではあるけど、観て損のない1本じゃないかと思う。