テアトル梅田で「親密すぎる打ち明け話」

mike-cat2006-07-22



2003年の「歓楽通り」以来、
3年ぶりの日本公開となる、パトリス・ルコント最新作。
僕自身、観るのは「フェリックスとローラ」以来となる。
税理士をセラピストと勘違いした女性と、
セラピストの微妙な関係を描いたこの作品、
主演はルコントの「仕立屋の恋」にも出演したサンドリーヌ・ボネール
「バルニーのちょっとした心配事」のファブリス・ルキーニが務める。

パリ、とあるビルの一室の税理士事務所。
ある日訪れた、アンヌ=ボネールと名乗る美しい女性は突然、
税理士ウィリアム=ルキーニに夫婦のセックスの悩みを打ち明け始める。
彼女は同じフロアにある、心理療法士のオフィスと勘違いしていた。
間違いと言い出せないまま、セラピーを続けるウィリアムだったが…


パッと聞いただけで観てみたくなる、絶妙のプロットだ。
突然、見知らぬ美人からセックスの悩みを打ち明けられる。
あんなことやこんなこと…
思わず、さまざまな想像がよぎるくらい、幅広い可能性を内包している。
パトリス・ルコントのブランド力も相まって、
劇場には、いかにもこういうの好きそうなオバさま連中がひしめいていた。


実際、映画を見始めると、想像していた展開とはちと違う。
やや強引さも感じられる、〝アンヌの勘違い〟の展開。
だが、そのサスペンスフルな展開を、さほど引っ張ることはない。
むしろ〝気付いた後〟の描写をみっちりと書き込んでいる。
予想していたコメディ的な部分はかなり抑えめで、
アンヌとウィリアムの微妙な緊張感を、官能的に描くことに力を入れている。


何より特徴的なのは、
ウィリアムの期待と不安、欲望と自制がないまぜになった、
不安定な視線をなぞるようなカメラワークだろうか。
あからさまな露出もないのに、どこか淫靡なムードを醸し出す。
髪結いの亭主」「イヴォンヌの香り」などにも通じるような、
いかにもルコントらしい、微妙に枯れたエロティシズムが感じられる。


そんな濃厚なドラマを演じる俳優陣の演技は見応え十分だ。
ファブリス・ルキーニ演じるウィリアムの、おどおどした態度と、幼児性。
サンドリーヌ・ボネール演じるアンヌの表情の変化も彩り豊かだ。
ある時は傲慢さ、ある時は弱さに激しく揺れるアンヌの感情、
そのたびに美しさ、ある種の醜さなどさまざまな顔を出す。
ウィリアムの元奥さんジャンヌ役のアンヌ・ブロシェも魅力的だ。
ダメ男っぽいウィリアムに微妙に未練を残すジャンヌをチャーミングに演じきる。


一方で、映画全体に散りばめられた、とことん濃ゆい描写が、
物語のテンポを微妙に削いでいる面も否めない。
104分という尺の割には、間延びした部分はやや多めの印象。
ラストに関しても、ちょっと懇切丁寧に描きすぎた気がする。
もっとあっさり、それでいて含みを持たすようなラストなら、
もっと深い余韻が残ったのにな、という不満が残ったのも確かだ。


とはいえ、ルコント映画のファンなら、間違いなく楽しめる1本。
主演2人の演技だけでも十分料金に値する、佳作だとは思う。
ウィリアムの気分にシンクロしながら、
アンヌの胸元にちらちらと視線を送れば、
思わずこちらの妄想も膨らんでしまうような、後ろめたさもまたいいのである。