布施ラインシネマ10で「オーメン」

mike-cat2006-06-06



6年6月6日にリメイクの「オーメン」初日。
なかなか悪趣味な趣向だが、素直に乗ってみる。
都合のいい上映時間に釣られ、
近鉄沿線のローカル・シネコンで初鑑賞だ。
ちょっと場内が明るめだが、なかなか悪くない劇場かも。
ちなみにこの日はメンズデー。前売り券あったのに…


ヨハネの黙示録に予言された、
不吉な彗星が観測された6月6日の午前6時。
アメリカの外交官ロバート・ソーンの妻ケイトはローマの病院で出産に臨んでいた。
出産に間に合わなかったロバートに、牧師が告げた死産の報せ。
だが、牧師は偶然同じ病院で生まれた赤ん坊を差し出す。
母親は出産時に死亡し、身寄りもないという男児をロバートは引き受ける。
ダミアンと名付けられたその男の子は、病気ひとつしないまま成長した。
だが、大使として赴任したロンドンの屋敷で開かれた、
ダミアンの誕生日パーティーで恐ろしい事件が起こる。
その傍らで、人知れずダミアンと視線を交わす黒い犬。
黙示録に記された悪魔の子は、その野望のために着実に邪魔者を消していく−。


というわけで、あまりにも有名な傑作ホラー「オーメン」のリメイクだ。
例の〝首〟のシーンを始め、数々の名シーンに〝血塗られた〟1976年版から、
30年の時を経て、さらに不穏な世界情勢の下、不吉な日付に合わせての公開。
グレゴリー・ペック主演のオリジナルにどこまで迫ることができるか、さあ注目、だったのだ。


まず結論からいうと、「悪くない」リメイクじゃないかと思う。
ガス・ヴァン・サント版「サイコ」ほど忠実じゃないけど、
「ゾンビ」→「ドーン・オブ・ザ・デッド」ほど新訳じゃない、ほどほどのリメイクぶり。
ロバート役のグレゴリー・ペックリーヴ・シュライバーをそのまま比較すれば、
そりゃ(現時点では)どうしても格落ちになってしまうのは否めないが、
若い夫婦の苦悩をひとつのモチーフに選んだアイデアは、なかなか面白いと思う。
くせ者シュライバーならでは、の新解釈は伝わってくるし、
ケイト役のジュリア・スタイルズも、いかにもわがままそうな若妻をうまく演じている。


乳母を装った悪魔の使い、ミセス・ベイロックを演じたミア・ファローも、
オリジナル版のビリー・ホワイトローとはまたひと味違う怖さを醸し出す。
さすが「ローズマリーの赤ちゃん」のファロー、といったところなんだろうか。
さらにピート・ポスルスウェイトデヴィッド・シューリスマイケル・ガンボンと、
実力派俳優で脇を固め、ドラマの緊迫感をさらに上げていく試みも成功していると思う。


そして、もちろん2006年版ダミアン、シーマス・デイヴィー=フィッツパトリックもいい。
オリジナルのハーヴェイ・スティーヴンスを現代に甦らせた(といってもたかが30年だが)
といっても差し支えのない、妖気を帯びた冷たい瞳で、観るものを凍りつかせる。
お馴染みの、映画の最後で見せる微笑みは、かなりゾッとする感じだ。


有名な〝首〟のシーンや、「ダミアン、あなたのためよ!」も、かなりいい。
恐怖を最大限に引き出す、その一瞬までの焦れるような描写は、
オリジナルのやり口を踏襲しつつ、技術的な進歩も織り込んで、ドンとやる。
中でも見せどころの〝首〟は、その直前の不安を煽るカメラワークを含め、やはりクライマックス。
全部わかっているのに、それでも思わず体が一瞬硬直してしまった。


だが、もちろん不満がないわけじゃない。
まずは全体的な場面場面のトーン。
これがもう何だか、やけに明るくって、違和感すら覚えるのだ。
例えるなら、フィルムではなく、ビデオで撮影した時代劇。
アンチ・クライストを描いたおどろおどろしい映画が、何だかとても晴れやかに映るのだ。
自然が織りなす光と影で描くべき恐怖の世界が、
明るいライトで人工的に作られた世界で間違って再生されているような印象になってしまう。


それと同様に、演出そのものにも、どこか軽さ、が目立つのも否めない。
俳優たちの演技そのものは悪くないのに、何だか重厚感に欠けるのだ。
脚本はオリジナルを手がけたデヴィッド・セルツァーだから、やはり演出の問題だろう。
ローマの病院でのシークエンスがちょっとチャカチャカしているあたりで、
ちょっと気にはなり出したのだが、ドラマ部分での焦らしがどうも足りない。
もちろん、テンポを考えてのことだとは思うが、
だからといってバタバタと説明に走るのも、ちょっと考えものだろう。


結局、そのトーンの明るさと演出の軽さが相まって、
あのオリジナル版の〝格調〟が欠けた、無難なリメイク、という評価もできてしまうのだ。
監督は「フライト・オブ・フェニックス」「エネミー・ライン」のジョン・ムーア
撮影はリーボックコカ・コーラなどのCMを手がけたジョナサン・セラ。
どちらもMTV&CM系というこのコンビが、「オーメン」すらも軽くしてしまったのだ。


もちろん、オリジナル作品を観ていない人は十分楽しめるはずだし、
比較さえしなければホラー映画としてのクオリティはなかなか高いと思う。
近年のリメイクホラーの中ではまずまず秀逸であることは認めるが、
オリジナル版のような特別な作品、にはなりえないのも確かなのだ。
だから、これから観る方にはあまり期待はし過ぎないように、
と言い添えた上で「それでも観て損はない」と言いたい。
結局どっちなんだ、という感じではあるのだけど、ね。