千日前国際劇場で「ポセイドン」

mike-cat2006-05-27



ご存じ1972年製作の傑作パニック・アドベンチャー
ポセイドン・アドベンチャー」のリメイクである。
もっとも、テレビで観た記憶がおぼろげにあるだけだから、
個人的には前作のイメージというのは無に等しい。
さらに、ジーン・ハックマン主演のオリジナルとは、
登場人物や、細かいストーリーなどはまったく別だとか。


監督はウォルフガング・ペーターゼン
予告なんかでは「パーフェクト・ストーム」「トロイ」の〜とあるけど、
実際それって惹句になるの? という疑問もちょっと浮上する。
ペーターゼン作品をほかにも挙げると、
ザ・シークレットサービス」「エアフォース・ワン」「アウトブレイク」…
どれも、そこそこは面白いけど、すごく面白いとは言い難い作品ばかり。
そうなるとこの作品もやっぱり…
まあ、そんなわけで、先行レイトショー観に行く割には、期待値−低、で劇場に向かう。


時はニューイヤーズ・イブ。
大西洋を航海中の豪華客船「ポセイドン」は、パーティーが華やかに催されていた。
プロポーズの時を迎えるカップルあり、恋人との別離に涙する者あり、
酔った客のふところ目当てにギャンブルに血道をあげる者あり…
だが、新年の歓喜の瞬間は、巨大な恐怖によってかき消される。
ポセイドンを襲ったのは、空を覆うばかりの巨大波。
逃げ出す間もなく、転覆した巨大船の中で、とてつもないサバイバルが始まる−


このテの映画は、導入部がやたらとかったるいのが定番だが、この作品は違う。
登場人物の背景や、ドラマの伏線もそこそこに、
いきなり大波、いきなり転覆、で、パニック・ワールドを展開させる。
おっ、これは理屈抜きのノンストップ・アクション!? と期待が膨らむ瞬間だ。
だが、ここからがどうにもこの作品、中途半端なのである。


まずは一番の見せ場であるはずの大波。
激しい潮流が原因ともいわれる謎の大波「ローグ・ウェーブ」に、ポセイドンが呑まれる瞬間だ。
これがやたらとあっけない。はっきりいって、予告以上の驚きはゼロ。
いきなり大波、いきなり転覆はいいのだが、その描写までインスタントに終わってしまう。
だから、大波の恐怖とか、転覆の恐怖とかはほとんどなし。
閉鎖空間、あふれる水…、息苦しさを感じさせる、定番の恐怖はあるが、
あとは数多ある潜水艦映画と、大差はない。
そりゃ、「Uボート」の監督だから、そこらへんはお手のものだが、
だからといって新鮮さにあふれた、何かが描かれるということもない。
あとは、ただ単に、豪華客船ならではの、大きな空間と、
上下さかさまになった脱出路、というだけ。
それすら、舞台設定として十分生かされた、とはどうにも言い難い。
手に汗握る脱出劇、というより、
時間軸に沿ったていねいな再現フィルムを見ているようで、どこか盛り上がりに欠けるのだ。
おまけにCGの使い方も悪いせいか、スペクタクルはほとんど感じないまま、100分弱が過ぎる。


さらに、お情け程度に張られたドラマの伏線や、人物設定も、
編集が悪いのかまったく生きてこないのが、あまりにも辛いところだ。
たとえばカート・ラッセルは消防士出身の元市長で、
ちょっと「バックドラフト」に9・11の要素をもたしたような人物なのだが、
結局この人はどういう人なのかがわからないまま、映画はラストを迎えてしまう。


いわゆる美味しいところを全部もっていくのが、
メラニーは行く!」「ステルス」のジョシュ・ルーカス
序盤こそ微妙に複雑な人物ふうの扱いなのだが、転覆後はただのスーパーマン
その活躍ぶりは確かにかっこいいけど、深み、みたいなものはまるでなし。
序盤で思わずドン引きさせられるシーンもあって、なかなか感情移入しにくい。


女性陣は小粒だが、なかなか新鮮でいいメンバーを取りそろえた。
エミー・ロッサムは「ミスティック・リバー」で、ショーン・ペン親父を号泣させた娘さん。
デイ・アフター・トゥモロー」にも出ている、瞳がちょっと印象的な女優だ。
白いカラス」「炎のメモリアル」のジャシンダ・バレットも、
9歳の子供を連れて、脱出劇に適度な負荷を与えてくれる。
ブラック・アイド・ピーズファギーことステイシー・ファーガソンも出ているが、こちらはちょい役。


問題はやたらと小皺の目立つリチャード・ドレイファスだろう。
「陽のあたる教室」のころから、もう老齢に近いイメージが強まったが、今回はややきつい。
おまけに若い彼氏にフラれて自殺間近の役柄で、
その後もやや複雑な状況に置かれるのだが、その割に扱いがぞんざいだ。
いったい何を狙ってこの人をキャスティングしているのか、首をひねらざるを得ない。


さらに近年の映画にしては、潔いくらい人種的な配慮がない。
何しろ、助かるのは白人とユダヤ人だけ。
アフリカ系の人はポンポンと容赦なく死んでしまうし、
ラテン系なんて身もふたもない殺されかたで、物語から姿を消す。
ドイツ人にそういう配慮を求めるのも何だが、それにしてもちょっとひどい。
そういう部分には無頓着な方なんだが、これはさすがに気分を害してしまった。


そんなわけで、ジョシュ・ルーカスの熱狂的ファン以外にはあまりお勧めできない作品だ。
あくまで映画の日とか、格安チケットとか、レディース・デイにヒマがあったら、のレベル。
何の期待もなく、単に2時間弱を過ごすためならば、そう悪くはないかもしれない。
それでも満足感を胸に劇場を後にするのは、かなり難しい。
期待していなくても期待外れ、そんな言葉が思い浮かぶ、凡庸な作品だった。