MOVIX京都で「プロデューサーズ」

mike-cat2006-04-16



ゴールデン・グローブ賞4部門ノミネート。
1968年製作のメル・ブルックス監督・脚本によるアカデミー受賞作を、
ブロードウェイミュージカル化したトニー賞受賞作(史上最多12部門)を、
さらにオリジナルキャストで映画化したという、もうとんでもない作品だ。
ネイサン・レインマシュー・ブロデリックの主演コンビに、
ウィル・フェレルユマ・サーマンという映画版オリジナルの配役をほどこし、
豪華な装いで帰ってきた「プロデューサーズ」なのである。


まず結論から書くと、このミュージカル映画、文句なしの傑作だ。
アカデミー賞からは2年前6部門を受賞した「シカゴ」の記憶が新しいせいか、
まるで無視された格好にはなっているのだが、個人的には「シカゴ」より上。
最高にイカれてて、最高に悪趣味で、最高に楽しくて、最高に笑える、
まさしくブラボー!!! としかいいようがないほどの快作にして、傑作だ。
未見の人に、言いたいことはただひとつ。
「観なさい!」。
ああ、これじゃおすぎだ。訂正、訂正。
「ことし、何があっても見逃せない一本。映画ファンじゃなくても観るべき」だ。


舞台は1959年のマンハッタン、ブロードウェイ。
かつての大物プロデューサー、マックス=レインの新作はまたも打ち切りとなった。
そんなマックスのもとを訪れた小心者の会計士レオ=ブロデリックは、ふと気づく。
ミュージカルが失敗した場合、帳簿上のカラクリで大もうけができる、ということに…。
かくして二人は、最低の脚本、最低のキャスト、最低の演出による、
大コケ確実の、史上最低のミュージカル製作に取り掛かるのだった−。


劇中劇のミュージカルとは違って、このプロットだけでも、
もう成功がなかば約束されたような、魅力的なストーリーラインである。
その上、登場人物がまた魅力的な連中にあふれている。
マンハッタン中の金持ち婆さんを誘惑して、製作費をひねり出すマックスに、
ヒステリーの発作を抱え、赤ん坊の頃から使っている毛布の端切れが手放せないリオ。
ビルの屋上に住み着くナチスかぶれのアホ脚本家リーブキン=フェレルに、
突然ご開帳ダンスを踊りだす、英語のしゃべれないスウェーデン娘ウーラ=サーマン、
そして「デスパレートな妻たち」で話題のロジャー・バート演じる秘書カルメンと、
ゲイリー・ビーチ演じる演出家ロジャーの最高にキッチュでハッピーなゲイ・カップル…
時に悪趣味丸出しだけど、思わず笑い転げてしまうような、コミカルな連中ばかりなのだ。


ブロードウェイでいま一番客が呼べるトップスター、
ネイサン・レインの演技、ダンスは言うまでもなく、最高に楽しい。
「バードケージ」「マウス・ハント」でも見せた、ドタバタのクオリティたるや、
もう、ネイサン・レインだけでも1800円払う価値がある、といっても過言ではない。
マシュー・ブロデリックも、映画の世界では80年代の青春スターに過ぎないが、
こちらの世界での輝きぶりたるや、もうまるで別人のようにきらびやかである。
序盤こそ、ヒステリー演技のクドさにちょっと不安がよぎるが、単なる杞憂に過ぎない。
歌とダンス、そして絶妙の演技が、笑える小心者キャラ、レオの魅力を最大限に引き出す。


奥さまは魔女」では、一部で酷評にさらされたウィル・フェレルも、
何の制約も受けない環境で、バカ・キャラを思いのままに演じきり、
映画の中に強烈なスパイスを効かせる。
キル・ビル」「パルプ・フィクション」のユマ・サーマンも、
喜々としてカリカチュアライズされた、北欧お色気むんむんキャラを演じて、
映画の中にカラッとしてバカっぽい、楽しいお色気を提供してくれる。
ブロデリックとのダンス・シーンは、アステア&ロジャースを思わせる、
最高にファンタスティックなひとときを、観る者に与えてくれる。


そして、この映画に欠かせないのが、ロジャー&カルメンのゲイ・カップルだろう。
異常に長い発音の〝s〟を響かせて登場するカルメンに、
クライスラー・ビルそっくりのドレスで現れるロジャーが画面に出てきた瞬間、
映画はもう、最高のコメディとして、常に笑いの臨戦態勢を作り出す。
ひとつひとつのセリフ、そして一挙手一投足に込められた、
毒とバッド・テイストに満ちたギャグの数々には、もうしびれまくる。


ミュージカル場面のクオリティも、もちろん文句なしだ。
思わず引き込まれるようなゴージャスで、楽しいナンバーの数々に、
ワクワクしたり、大笑いしたり、思わず口ずさみたくなったり…
ミュージカルの醍醐味を存分に味わわせてくれる一方で、
コメディとしての笑いも、もう十分すぎるほどに提供してくれるのだ。
中でも最高なのはやっぱり、
ロジャーとカルメンが登場する場面でかかる〝Keep it gay〟だ。
ゲイの語源でもある、「陽気な」「華やかな」と、
そのまんまゲイのダブルミーニングで「ゲイでいこう!」と、楽しく歌い上げる。
ハードゲイ(フォーッではない)に×ッ×リ×イ×、
×ィ×ッ・×ー×ルのそっくりさんまで登場し、しばし恍惚になるくらいの笑いを巻き起こす。


劇中劇ならぬ、ミュージカル内ミュージカルも最高におかしい。
“Springtime for Hitler〟の主題歌に乗せ、「春の日のヒトラー」が踊りだす。
侵略されたポーランドもフランスも笑い飛ばしてしまう、危険すぎるミュージカル。
脚本家のリーブキンと、飼い鳩たちのバカっぷりも、もう見事としか言いようがない。
よくもまあ、そんな細かいトコまで、と感心するまでの笑いへのこだわりで、
あまちに危険すぎるこの題材を、最高のブラックジョークにまで昇華する。


しかし、この映画のすごいところは、
こうやって長々と書き連ねても、まだまだその魅力の一端しか説明していないところだ。
(もちろん、僕の文章力不足もその大きな要因のひとつではあるが…)
「ミュージカルって、何か苦手だな」という向きですら、
思わず引き込まれずにはいられない、とんでもない吸引力であったり、
「134分ってちょっと長いんじゃない?」と思っていたら、
時間をまったく感じさせないくらい、とんでもなくテンポがよかったり…
とにかく、何にせよ、この映画は必見なのである。


「そんな期待を煽っちゃったら、肩透かし喰わない?」だって?
そんな心配は一切ご無用だ。観れば間違いなく納得するはずだ。
少なくとも、僕は5000円払ったって、まったく惜しくない。
これぐらい自信を持って勧められる映画、そうはない。
何はともあれ、劇場へ向かってほしい。
それが、こんな長くてクドいレビューを
最後まで読んでいただいた方への切なる願い、そしてアドバイスなのである。