梅田ブルク7で「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」

mike-cat2006-03-19



待ってました! のシリーズ最新作。
〝WALLACE & GROMIT
 : THE CURSE OF THE WERE-RABBIT〟
過去にも2度のオスカー(最優秀短編アニメ)に輝いた、
クレイ・アニメの人気シリーズ「ウォレスとグルミット」の初長編でもある
ことしのアカデミー賞でも、最優秀長編アニメ賞を受賞した。


しかし、この作品にはオスカーがどうの、賞がどうのなんて関係ない。
純粋に映画ファンとして、「最高だ」という言葉を贈りたい。
不覚にも、タイトルクレジットで涙がこぼれそうになるくらい、
とんでもなく高い期待値で臨んだのだが、見事その期待に応えてくれた。
笑って、ワクワクして、ドキドキして、泣いて…
85分間に、笑いと夢と感動をギュッと詰め込んだ、最高のエンタテインメントだ。


舞台をイギリスのとある田舎。
500年続く町の伝統行事「巨大野菜コンテスト」が近づいていた。
人々の心配は、野菜を食べてしまうウサギの大繁殖だったが、
発明家ウォレスと、忠実な犬の相棒グルミットが営む、
害獣駆除会社「アンチ・ペスト」の活躍で、野菜たちの安全は守られていた。
しかしある日、巨大ウサギの出現で、大事な野菜に危機が訪れる。
巨大ウサギ退治に繰り出されたウォレスたちだったが…


ウォレスとグルミット」のシリーズといえば、
クレイアニメのハンドメイド感に、あの「サンダーバード」さながらの仕掛けの数々、
イギリスの伝統的な風習と独特のスラップスティックなユーモア感覚が魅力である。
こういった小品が巨大な資金力(今回はドリームワークス)と結びついた時、
たいていは中途半端に話がでかくなるだけで、
その作品ならではの魅力、特に小品ならではの味わいが失われるケースが多い。
しかし、この作品においては、それはまさに杞憂に過ぎない。
確かに、「カネかかってるな」という部分は感じるが、そのカネがムダに使われていない。
小品ならではの味わいはそのままに、
より凝った仕掛け、より凝った背景、より凝ったジョークが展開されていく。


オールドファッションな粘土によるストップ・モーションによる、
クレイ・アニメならの質感はそのままになっているのも、ファンにはうれしい限りだ。
おそらく、最新のCG技術なども使われているはずだが、
そればかりに頼って、クレイの味わいを失うようなことはない。
そこらへんのさじ加減も、クリエイターのニック・パークならではのこだわりなのだと思う。


いままでの作品同様、グルミットのチャーミングさ、そして大活躍ぶりもたまらない。
さまざまなことを雄弁に語る表情、そしてクールな立ち居振る舞いは、
相も変わらず作品の中核をなす魅力として、輝きを放つ。
発明品はすごいけど、いつも役立たずなウォレスも、同様にマヌケぶりを発揮する。
グルミットによりかかりっきりのこのオッさんが、
あの奇妙きてれつな発明品の数々を生み出したというのも、また味わい深い。


そして、この作品のもう一方の主役が、ウサギたちだ。
シリーズ第3作の「ウォレスとグルミット、危機一髪!」では、
羊たちがもうたまらない魅力を振りまいていたのだが、
今回のウサギたちも、それに負けないくらい、観るものの頬をゆるませる。
スチールとかで最初にブタ鼻のウサギを見た時は、
正直微妙な気もしたのだが、実際に動いている姿を見たら、あっという間に悩殺だ。
ちなみに「アンチ・ペスト」は害獣駆除、とはいってるが、
ウサギを傷つけたりは決してしないのでご安心召されい。


ストーリーももちろん、決して複雑ではないが、とても丁寧な作りになっている。
随所に張られた細かい伏線、細やかな感情描写、
めりはりのあるテンポのいい展開…、どれをとっても一級品。
子どもが観ても楽しいし、大人が観ればもっと楽しい、上質の作品に仕上がった。
子どもがいる人は、まず子どもと1回、次に大人だけでもう1回をお勧めしたい。
そのくらい、映画を観る喜びに満ちた作品でもある。
「すぐにでももう1回観たい!」と強烈に感じさせる傑作に出会うのも久しぶり。
ことしこの時点というか、ここ数年でもベスト候補に挙げたくなる、そんな素敵な作品だった。