梅田OS劇場で「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」

mike-cat2006-01-18



何か聞いたことあるなぁ、というタイトルだが、
〝マイ〟を抜いてみたら、その謎が解ける。
プルーフ・オブ・ライフ」。
ラッセル・クロウメグ・ライアンによるしょうもないサスペンス・アクションだった。
まあ5年前の駄作を覚えているヒトもそう多くないのだろうが、
〝マイ・ライフ〟とか安直につけずに、
素直に原題の〝PROOF〟でいいのでは、なんて、まずは思ってみた。


ジョン・マッデン監督と、グウィネス・パルトロウによる、
アカデミー賞作品「恋に落ちたシェイクスピア」のリユニオン作品だ。
デーヴィッド・オーバーン自身の脚色による、
ピューリッツァー賞受賞の舞台劇「プルーフ」の映画化となる。
パンフレットの解説によると、ハリウッド女優がこぞって主演を希望したとか。
その真偽はどうも微妙な気がしないでもないが、
なるほどいかにもアカデミー賞を意識したような、人間ドラマだ。


シカゴに住むキャサリン=パルトロウは、
天才数学者の父ロバート=アンソニー・ホプキンスを失ったばかりの27歳。
若くして数々の業績を上げた父は、近年は精神のバランスを崩し、
キャサリンの看護のもとで、静かに余生を送っていた。
哀しみに沈むキャサリンのもとに現れたのは、
NYでキャリアを積んだ姉クレア=ホーピ・デイヴィスと、
ロバートのかつての教え子ハル=ジェイク・ギレンホール
ハルとのロマンスが芽生える中、問題が巻き起こる。
誰も証明できなかった数学の定理が、突如遺品のノートから見つかった。
しかし、このノートをめぐり、キャサリンは再びこころを閉ざすこととなる。
果たして、キャサリンの生き様をめぐる〝証明(プルーフ)〟はなされるのか−。


どこまであらすじを書いたものか、ちょっと悩むお話なのだが、
つまりは、20代の一時期を奪われ、自尊心を失った女性の再生を描いたドラマだ。
序盤でグウィネス・パルトロウが歳を訊かれ「27歳」と答える場面では、
思わず「おい!」と突っ込みたくなるのだが(実際は撮影時33歳と思われる)、
なるほど、目の下のクマといい、陰気な眼差しといい、
自尊心を失った女性、という意味ではなかなかのキャスティングではないかと思う。


ただ、拗ねていたり、落ち込んでいる場面ははまっているものの、
ハルとのロマンスや、物語全般を通じて再生していく中での輝きがいまいち足りない。
それが「恋に落ちたシェイクスピア」との最大の違いだろうか。
そのせいで、どうしても映画そのものの輝き、というものが欠けている感は否めない。
もちろん、グウィネス〝ケロヨン〟パルトロウというのは、
好き嫌いが分かれる女優でもあると思うので、評価は微妙かもしれないが…


感心できないポイントはそれだけではない。
生前、ロバートが精神のバランスを一時期取り戻していた頃の場面と、現在、
そしてキャサリンの空想の中でロバートが話しかける場面が入り交じり、
構成としては決してわかりやすい映画とはいえない。
ミステリ仕立てに、〝真相〟を引っ張るやり方は、
むしろドラマの味わいを薄めてしまっているような印象も受ける。


最終的な〝証明(プルーフ)〟に関しても、
あまりすっきりした流れに持ち込めなかった印象が強いのが痛い。
ラストに至る経緯に、どこか矛盾というか唐突さが感じられるのだ。
抽象的な書き方だが「そこでそうなるなら、もっと前にこうなっているはず」という具合。
よじれによじれたわだかまりが、最後に晴れた感じがないだけに、
爽快感という部分で、かなりもの足りないのだ。


とはいえ、つまらない作品か、というとそれはまったく別の問題。
それがまた、この映画の困ったところでもあるのだが、
作品全体のバランスを欠きつつも、魅力的な部分も少なくない映画なのだ。


たとえば、モチーフとなる数学。
精神のバランスを崩した数学者、というと、
小川洋子の「博士の愛した数式」を思い浮かべるところだろう、
「博士の〜」も、誰もが忌み嫌う数学、数式の思わぬ魅力を、詩的に描いた作品だったが、
このプルーフに登場する人物たちも、まるで大好きな音楽を語るように、数学を語る。
ジャズのコードのように複雑に進行する定理の証明であったり、
エレガントな数式のみが放つ、ある種の様式美であったり…
その語り口は、さすが「恋に落ちた〜」のジョン・マッデンと感心するばかりだ。


輝きが欠ける、と酷評しておいて何だが、パルトロウの負の演技は悪くない。
それに呼応する、ジェイク・ギレンホールの繊細な演技とのマッチングは絶妙と言っていい。
細やかにして豪胆なアンソニー・ホプキンスの存在感、
物語のスパイスとしての嫌味な部分をすべて引き受けたホープ・デイヴィスの妙味も捨てがたい。
それらの強烈なアクが、過剰な演技合戦の一歩手前で抑えられているのも、好印象だ。


そんなわけで、観終わって深い感動に包まれると言うことはないのだが、
一方で観応えはなかなかのものだったりするわけだ。
ただ、アカデミー賞最有力、の声にはどうも首を傾げざるを得ない。
実際ゴールデングローブとかでもあまり評判はよろしくないし…
主演か助演で、とかならまだしも、作品賞には絡まないはずだ。
総体的な作品の評価をするなら、まあそんなところだろうか。
見逃してしまうにはもったいないのだが、
このキャスト、このスタッフにしては、まあ期待外れの感もある。
「結局、どっちなんだよ」ということになるんだが、
僕もよくわからないまま、劇場を後にしたもので、どうしても歯切れが悪くなる。
ううん、結局どうだったんだろう…、
いつの日かもう一度観てから、最終的な評価は下してみたいな、と。