京都河原町は京極弥生座で「インサイド・ディープ・スロート」

mike-cat2005-12-13



大阪では旅行中に上映が終わってしまい、
悔しい思いに暮れていたのだが、京都でやっているのを発見、
モーニング&レイトのみなのということなので、早起きして向かう。
以前も行ったことはあるのだが、新京極の場末感漂う劇場。
いや、相変わらず汚いな、と思って入ると、火曜日はメンズデーで1000円だとか。
予期せぬおトク♪
レディースデーとか、夫婦50だとか、高校生だとか、
世の割引という割引から隔絶された、一般成人男性としては、なかなかうれしい。


〝あの〟伝説のポルノ映画「ディープ・スロート」の内幕を描いたドキュメンタリーだ。
〝あの〟とは書いてはみたもののが、実際に映画を観たことはない。
ただ、内容はどこかで読んだことがある。
のどの奥に〝ク×ト×ス〟があるという女性を主人公にしたポルノらしい、と。
で、のどの奥にこう、アレがね、こうぐぐぐっとくると「アン♪」ということで…
今回「インサイド〜」を観るにあたって、
あの「タイタニック」をしのぐ6億ドル以上の興行収入、と聞き、ムチャクチャ驚いた。
それも製作費は2万5000ドルだとか。
時代(1972年)も時代だし、製作費1億だか2億ドルのタイタニックとは、比べものにならない。


そして、この映画は(あくまで結果的に、だが)
いわゆる米国社会での〝性の解放〟の象徴的な映画ともなったという。
性について語ることすらタブーだった時代に、
オーラルセックスや、女性のオーガズムを描いた、という斬新さは特筆に値する(らしい)。
むろん、あくまでその視点はオトコのものであるから、フェミニズムの反発を呼ぶし、
性な乱れ、を憂う保守反動勢力の格好の標的となる。
つまり、映画史上の事件であったばかりか、アメリカ史上の事件そのものなのだ。


というわけで映画なのだが、これがもう見応え十分だ。
まずは序盤のBGMからしイカしてる。
同時代のポルノ業界を描いた名作「ブギーナイツ」でも使われた
〝Brand New Key〟〝Spill The Wine〟あたりで、〝時代〟がぷんぷんと匂ってくる。
そして関係者のインタビューと、当時のニュースフィルム、
映画「ディープ・スロート」から構成される映像には、まさにその時代が映し出される。
ニクソンが再選に利用した、保守反動勢力の反発、そして興行に潜むマフィアの陰、
告発のスケープゴートにされた主演俳優、欲求不満顔の担当検事、
実はマインドコントロールされていた主演女優、映画が引き起こしたセックス論議などなど、
映画にまつわる様々な要素が、それぞれやたらと興味深い
そして、様々な事件が、この映画の影響力の大きさをうかがわせる。


そして映画は、かつてのクリエイティビティを失い、
単なるセックス産業に成り下がったポルノ業界を映し出し、ある種の切なさを醸し出す。
その様子は、アダルトビデオの普及に押され、
斜陽となったアダルト映画業界の姿を描いた「ブギーナイツ」そのものだ。
そういう意味では「ブギーナイツ」のサブテキスト的な鑑賞法もできるわけだ。


かつてその業界に身を置いたウェス・クレイブン(「スクリーム」「エルム街の悪夢」)であるとか、
思い入れたっぷりに当時の様子を語るジョン・ウォーターズ(「ピンク・フラミンゴ」「シリアル・ママ」)に、
「プレイボーイ」誌のヒュー・ヘフナー、「ハスラー」誌のラリー・フリントら、
インタビューで登場する出演陣も豪華そのものだし、
ディープ・スロート」を糾弾し、弾圧を加えたニクソンが、
ウォーターゲート事件では〝ディープ・スロート〟に政治生命を断たれる、というオチもいい。


観終わると、まさに〝歴史〟を体験した、という気分になれる傑作だ。
京都までわざわざ足を運んだ甲斐があった、どころか、
「これを見逃していたら…」という、安堵感すら感じてしまう。
DVDではぜひ、本編「ディープ・スロート」とBOXセットを希望したいな、と。
それこそ、〝時代の記録〟として、貴重な一本となること、間違いなしだ。