なんば千日前は敷島シネポップで「Mr.&Mrs. スミス」

mike-cat2005-12-06



南米コロンビアで出逢い、恋に落ちたジョンとジェーンのスミス夫妻。
夫はさる組織の殺し屋、妻もまた違う組織の殺し屋。
お互いの正体を知らない二人は、微妙な夫婦生活を続ける。
しかし、ある日お互いの組織から指名されたターゲットは何と…


典型的なシチュエーション・コメディだ。
「そんなわけないだろ!」という状況を、まじめに演じ上げ、それを笑いに転じる。
その分、ヘンな戯けがなくても笑いを取れるのだが、
これをガマンできるかどうかで、映画の質は決まってくると思う。
で、この映画は、うまくガマンできてるのがポイント。
さらに、「ボーン・アイデンティティ」のダグ・リーマン監督の演出は、
スタイリッシュなアクションでテンポよく楽しめる作りになっている。
だから、この冬一番の〝スター映画〟は、
古きよき時代のたたずまいを漂わせつつ、〝よくできたスター映画〟となったのだ。


二大スター初共演、どころかその後はくっついてしまったワケで、
ここらへんもまた、かつてのスター映画っぽかったりするのだが、
まずは当代きっての〝スター〟ブラッド・ピットだ。
個人的には「ファイト・クラブ」「12モンキーズ」がベストなんだが、
これ、よく考えたらどっちもだいぶヨゴレ(特に「12モンキーズ」は…)である。
そう考えるとブラッド・ピットのスターの輝きで成功した作品って結局、
スターダムにのし上がるきっかけとなった「テルマ&ルイーズ」や、
フライ・フィッシングの場面が美しい「リバー・ランズ・スルー・イット」ぐらいなのだ。


しかし、この映画のピットはちょいと違う。
長い間抜け出せなかった「演技派になりたい病」から解き放たれ、
うまい具合に肩の力が抜けた一方で、
スターとしてのツボは外さない、絶妙のバランスで演じている。
だから、映画の雰囲気とちょうどマッチした、いい具合な軽薄さがたまらないのだ。


アンジェリーナ・ジョリーについても、同様のことが言えると思う。
この女優さんも、とてもいい女優だとは思うのだが、
「17歳のカルテ」とかでの好演はまったく別にすると、
あとは「トゥームレイダー」シリーズに代表されるように、
「観る前は面白そうだったけど、実際はたいしたことない」という作品ばかり。
スターではあるけど、本当の意味での代表作は意外とない、という女優さんだ。


だが、この映画でのジョリーは、どこか違う。
イメージやキャラクターの強烈さは相変わらずだが、
映画全体との関わりの中で、違和感がないというのが最大のポイントだ。
それは脚本や演出の手柄なのかもしれないけど、
ジェーン・スミスのキャラクターが、うまいこと映画の中でハマっている。
だから、お互いの正体を知らないスミス夫妻、という
シチュエーション・コメディとしての面白さが、最大限発揮されてくるのだ。


そう考えると、この二人のスターを使いこなした、
ダグ・リーマンの演出と、サイモン・キンバーグの脚本は評価に値する。
鈴木一郎さんと美子(よしこ)さん、みたいな人を喰ったタイトルを始め、
観る者を飽きさせないテンポのよさや、アクションの切れ味、
そして、ヴィンス・ヴォーン(「ドッジボール」「Be Cool」)という、
絶妙のバイプレーヤーを配するセンスのよさも見逃せない。
また、このコンビで製作して欲しいな、と率直に思えるできばえだ。


この映画の評価を例えて言うなら、
「何か、面白い映画はない?」と訊かれたら、
とりあえず名前を挙げたい第一候補、だという言い方が正確だと思う。
観る者を選ばないし、少なくとも2時間は最大限楽しめる。
そりゃ、胸を打つ感動作でもないし、歴史に残る名作でもないが、
2時間を楽しめる娯楽作品としては、これほど完成度の高い作品もそうはない。
大作過ぎない感じも、かえって好印象。
DVDで十分、という向きにも、「スクリーンの迫力を体感すべき」と反論できる。


まあ、そんなこんなでとにかく楽しめた。
こういう映画、夏と冬の映画シーズンには、
必ず一本ラインナップに欲しいな、と切実に思う。
前衛的な作品あり、感動のドラマあり、
キング・コング」みたいな超大作あり、そして肩の力抜いて観られるこういうコメディ。
バラエティ溢れる映画観賞には欠かせない一本だな、と自信を持って言える作品だった。