p1**[コラム、エッセイ]長島はちまき「美術モデルのころ」

mike-cat2005-11-26



旅行前に書評で気になって買っておいた本だ。
旅行中はハードスケジュールでまったく読めず、
飛行機でもビデオ見たり、旅行プラン練ったり…
でまったく本を読めなかったので、何と読書は2週間ぶり。
ホントはヨーロッパから帰ってきて一冊目は、
「ヨーロッパ合衆国」の正体」の予定だったのだが、頭がバカになってて読めない。
軽いヤツから、ということでこれにしてしまったのだ。


イラストレーターで漫画家の長島はちまきによる、青春メモワール。
表紙絵でわかる通り、いわゆる美術モデル(裸婦もありのやつ)だ。
オビにも宣言してある〝私、レンアイ第一主義です。〟という著者は、
死にたいほどの失恋をしたものの、
しかし、その相手に「死なないでね」と自殺も封じられ、途方に暮れる。
そこで目に入ったのが、美術モデル(裸婦)募集の広告だった。
〝環境を変えれば、やったことのない仕事をすれば、
 彼のことをおもって死にたくなったりせずに
 (筆者注…自殺しないという)約束が守れるかも…〟と、この仕事に飛びつく。
あまり知られていない裸婦モデルの世界を体験し、
渡りのアングラ劇団のオトコに再び押しかけ妻してしまう著者の青春が描かれる。


オトコとして、当然興味は裸婦モデル、ということになる。
それは、白状するまでもない。
無防備に全裸になった若い女性…。スケベな想像を掻きたてる。
もちろん、芸術ということは理解しているが、
「ああ、えっちしたい」とかの直接的な性欲ではないにしろ、ある種の欲情はあるはずだ。
それは「美しい」と思う感情も含めて、だ。
むしろ、モノとしてしか見られなかったら、芸術なんて成り立たないと思う。
旅行記ルーブル美術館の項でも書いたが、
「ああ、神々しいな」でも、「すごい興奮するな」でもなんでも、
そういう想いを、どう彫像や絵画に反映させるか、が芸術であり、表現なのだと思う。


でも、今回の読書はあくまでスケベな興味にある。
自信満々にいうべきことでもないが、まあそうなんだから仕方ない。
ただ、じろじろ見られるのが好き♪ とかいうそういう性的嗜好の話はない。
羞恥心とか、そこらへんの描写はあんまりない。
まあ、実際ないのかもしれない。
女性って、ここ一番けっこう大胆だから、そういうこともないのかも。
僕が裸夫モデルで、若い女性に囲まれたら、たぶん興奮しちゃうだろうと思う。
で、ムクムクとなり、モデルとして用が果たせなくなる。
いわゆる羞恥プレーといったところなんだろうが、
マゾじゃなくてもなかなか冷静ではいられないはずだ(あくまで想像、よ)。


興味深かったのは、「コマカイコト」としてまとめられた一項だ。
毎日ワキの処理(みなさんどうなのか知らないけど)、とか、
肌に跡がつくブラはしない、とか、ポーズ中はどんなに痒くなってもガマンする、とか…
女性ならではの事情とかも赤裸々に書かれていて、
ポーズを取るだけ、に思える裸婦モデルの様々な苦労がわかる。


さらに、裸婦モデルをやっている、ということを知った周囲の反応。
オトコは過剰反応を示すやつもいて、なんとも情けない。
自分の彼女でもないのに
〝敢えて一切その話に触れない〟
〝露骨に情けをかけてくれてしまう〟
〝「ごめん、もうつき合えない」と去る〟らしい。何で?
あんまり興味津々、というのも失礼だが、
友達だったら、人前で裸になるって、どんな気持ちかぐらい訊きたくないのか?
ましてや、憐憫はあまりに見当違いだろう。
別に無理矢理裸にされたわけでもあるまいし…


中盤からは、レンアイ話が中心になる。
劇団員との押しかけレンアイ、擦れ違い、そして別れ、新しい恋など…
ここらへんは、つまらなくはないけど、とても面白い、まではいかない。
この著者の女性の恋愛観、というやつも、
読んだ限りでは理解はできても、いまいちシンクロできない部分も多い。
で「ああ、そうなんだ…」程度の感情しかわき上がらないため、淡々と読み進む。


思ったのは、例え出逢うことがあっても
(若い時代の)この著者の女性とは、僕はつき合うことがないだろうな、ということ。
僕も恋愛に溺れるタイプではあると自覚しているけど、
この人ほどはたぶん、我を忘れて、まではできない。
言い換えれば、自意識のみに溺れていくことはできない。
まあ、それは人さまの恋愛なので、
どうこういうつもりもないし、否定するつもりもない。
ただ、僕はこういう女性とはつき合わないだろうな、というだけなんで、それまで。


本全体としてはもの足りない感もあるのだが、気になる本ではある。
それはスケベな興味、だけではなく、ひとりの女性の青春メモワールとして。
この人が愛し、苦しみ、それもひっくるめて楽しんだ青春時代の感情が、
とてもいい感じでリアルに伝わってくるのだ。
それは、恋愛スタイルの違いを超えても、どこかこころに響いてくる。
だから、ちょっと忘れられない本になるかも、と思いつつ本を閉じたのだった。