茶屋町・テアトル梅田で「ルパン」

mike-cat2005-10-06



幼いころ、マリー・アントワネットの首飾りをめぐって、父を殺されたアルセーヌ。
15年の時を経て、腕利きの怪盗に成長したルパンは、ある日
淡い恋心を抱いていたいとこのクラリスと再会する。
一方でルパンは、魔女とも称されるカリオストロ公爵夫人に惹かれ、
フランス王家の財宝の在りかを示す十字架をめぐって争奪戦を繰り広げる。
父の死の謎、そして王家の財宝を求め、ルパンの冒険が始まる。


モーリス・ルブラン原作の〝アルセーヌ・ルパン〟生誕100周年記念作品。
ルパンには「スパニッシュ・アパートメント」のロマン・デュリスを配し、
イングリッシュ・ペイシェント」のクリスティン・スコット・トーマス
「ドリーマーズ」のエヴァ・グリーンらを並べた豪華キャストに加え、
豪華絢爛な舞台装置に、カルティエによるジュエリーの数々…
カリオストロ公爵夫人」をベースに、「813」「奇巌城」をミックスしたストーリー。
フランスを始め、イタリア、韓国でも大ヒット!!
というのが、だいたいの惹句なのだが、ポスターから漂う雰囲気はどこか安い。
〝本物〟の原作を、〝本気〟で作った作品、という香りが匂ってこないのだ。


その〝安さ〟は映画が始まって、数分ではっきり形に表れてくる。
幼少時代のアルセーヌが登場する場面。
ヌルい導入の後、父と警察のひたすらヌルいアクションシーンが展開される。
「あら、これ大丈夫?」という不安は、成長したアルセーヌの登場で、またも膨らむ。
ロマン・デュリスって、いい役者だとは思うのだが、颯爽とした感じがどこか足りない。
あくまで若きルパン、という設定にしても、〝怪盗紳士〟たる由縁が感じられない。
盗みの手口も思わず「おいおい」と苦笑してしまうような、ずさんな手口。
警察にバレて走りだしたとき、はたと気づくのだ。
ルパン三世走りだ!!」。
そう、あのモンキー・パンチの名作「ルパン三世」のルパンと同じ、カチャカチャした走り。
そして、またも展開される、安直でスローモーなアクションシーン。
これで、ようやくこの映画の本質を理解する。〝ふつう〟のルパン映画だ、と。


確かに舞台装置や、場面場面のセットなど、大時代的な豪華絢爛さはある。
あるのだが、ストーリーもそれに合わせて大時代的な大味な作りなのだ。
だから、どこかで中途半端に説明臭いかと思うと、
突然何の説明もなく急速なギアチェンジで、一気にストーリーが展開される。
それにふさわしいのは、緩急というほめ言葉ではなく、唐突、という言葉だけだ。
冗長で、説明臭いのにも関わらず、ストーリーはブツ切れ…
だから、いつまで経っても物語世界に入っていけない。
どこか醒めた目で、ヌルい殺陣を眺め、ヌルい謎解きを眺め、ヌルい恋愛ドラマを眺める。


今回、そうしたヌルさをもっとも体現しているのが、クリスティン・スコット・トーマスだ。
魔女のイメージ、ということでやっているのだが、
なぜこのオバちゃんにルパンが惹かれるのか、の業の深さがまったく感じられない。
ひと時代昔の「イングリッシュ・ペイシェント」のころでさえ、
レイフ・ファインズはなぜこのオンナに?」的な部分があったのだから、いまはもう…
ロマン・デュリス演ずるルパンとの愛憎劇も、中途半端を極める。
もちろん、愛憎劇にいくつもの矛盾が横たわることは承知しているが、
この映画のロマンスは、その矛盾ぶりがあまりにも安すぎる。
愛ゆえの矛盾、という次元を越えて、ご都合主義&不必要な謎めかしの連続なのだ。


ひたすら退屈な132分を終えて思ったことはただひとつ。
原作はともかく、カリオストロクラリスという名前が出る〝ルパンもの〟映画なら、
あの作品があれば、もう十分。あーあ、ひさしぶりに観たくなってしまった…