梅田OS劇場で「がんばれ! ベアーズ ニュー・シーズン」

mike-cat2005-09-28



ウォルター・マッソー×テータム・オニールによる、
言わずと知れた1976年製作の傑作がリメイクされた。
恋人までの距離−ディスタンス−」「ビフォア・サンセット」の、
リチャード・リンクレーターによる〝現代版へのアップデート〟作品ということらしい。
テイストとしては、リンクレーター的には、むしろ「スクール・オブ・ロック」なのだが。
ビル・ランカスターによるオリジナル脚本を、
コーエン兄弟の傑作「バッドサンタ」を手がけた、
ジョン・レクアグレン・フィカーラのコンビが脚色。
バッドサンタ」に続いて心優しいロクデナシを演じるのはビリー=ボブ・ソーントン。
オリジナルではテータム・オニールが演じたアマンダには、
新鋭サミー・ケイン・クラフトが扮し、作品に新味を加えている。
これだけ並べ立てればもう蛇足に過ぎないのだが、
この作品、大量消費の〝子ども映画〟でない、
本気のキャスト&スタッフがつぎ込まれている。
オリジナルへの郷愁、以外にもそそられる要素に満ちた、魅力的な作品だ。


かつて切れ味鋭いカーブで〝ザ・ブレイド〟と称された、
元大リーガー、バターメイカーも、いまはしがない害虫&害獣駆除業者。
報酬目当てに少年野球のコーチを引き受けたはいいが、これがとんでもない弱小チーム。
酒飲みで女たらしのロクデナシ、バターメイカーも最初はまるでやる気なし。
しかし、次第に子どもたちに心惹かれ、本気の指導を始める。
バターメイカーの娘で剛速球投手のアマンダや、
不良の強打者ケリーの加入で快進撃を開始したベアーズだったが…


まあ、ストーリーに関しては、みなさんご存じの通り、だ。
といっても、オリジナル版を観たのもずいぶん昔なので、細かい点はまるで覚えていない。
よって、細かい点が「こう違う」というのは、
あくまで「こう違うのだろう」という想像の範囲を越えないのだが、とりあえず書いてみる。


ソーントンとマッソーについては、どちらがいい、悪い、は難しい。
ソーントンのロクデナシぶりと、マッソーのダルな感じは、
それぞれの味わいがあるし、優劣をつけるべき次元の問題ではないだろう。
ソーントンに関しては、「バッドサンタ」の時より、
やや〝いい人度〟高め、かつ単純化されたキャラクター設定に
やや微妙な不満も残るのだが、そこはそれ、やはり〝子ども映画〟でやり過ぎはよくない。
この作品のさじ加減は、オリジナルを現代版に〝翻訳〟した味わいとしては妥当だと思う。


テータム・オニールとサミー・ケイン・クラフトの比較、というのは難しい。
アイドル的な輝きでいうなら、もちろん(といったら失礼だが)比較にならない。
しかし、キャラクターの総体的な魅力という意味では、クラフトは悪くない。
現代的なヒネ加減なんか、なかなかのものだし、よりリアルといえる部分も多い。
自分のもとを去った無責任な父、バターメイカーに対して見せる、
慕いつつも許せない、という複雑な感情表現に関しては、
まずまずいい味が出ていたんじゃないだろうか。


子どもたちに関しては、野球のお荷物チーム、という部分はあまり強くない。
野球のうまいヘタはもちろんあるのだが、
1976年よりあらゆる意味で複雑化された、現在のアメリカの社会状況を、
より強く反映した、マイノリティ中心のチームという扱いだ。
アルメニア系にインド系、メキシコ系という人種構成に、
電動車いすに乗った子ども、やたらとシニカルな子どもなどなど、
オリジナルが製作された当時とは違い、単純化しづらいメンバーを連ねた。
ある意味、とてもフェアな作りでもあるのだが、難易度的には、挑戦的な作りでもある。


グレッグ・キニア演じるライバルチームの監督に引きずられ、
勝利至上主義に陥ったバターメイカーが、本当の価値に気づく部分なども、
快進撃のカタルシスにだけ浸るわけにはいかない、いまの社会状況を反映していると思う。
子ども相手にはやや説明不足な感じも否めないが、
それはそれで、いい塩梅で、人間ドラマが展開されている。
コメディ的な要素に関していえば、オリジナル版より毒は強い、という印象だ。
時には、かなり悪趣味な笑いも織り込まれている。
そこらへんは、リンクレーターとソーントンのお得意な分野だけに、
かなり、と言っていいレベルで笑わしてくれる。
コメディ映画として観るなら、オリジナルよりもかなり上かも知れない。


注文をつけるとすれば、ライバルのヤンキースはもっとヤなガキたちでよかったと思うし、
子どもたちの粗野な部分の描写においては、ややもすれば配慮に欠ける印象も覚えた。
チームのメンバーの母親で弁護士のリズ=マーシャ・ゲイ・ハーデンとのからみも、
中途半端な感じは否めないし、
子役一人一人の描写にもう少し時間を割いても、ともとは思った。
細かい点で、微妙に納得できない点は、そこそこあるのである。
だが、こういう複雑な時代に、こういうシンプルな話をフェアに描こうとすれば、
政治的な側面からも様々な問題が発生するのは、ある程度しかたのないことではある。
歯切れのよさが、マイノリティの切り捨てにつながってしまっては、意味がない。
そう考えれば、難しい時代によくぞ、という評価をしても、間違いではないはずだ。


バッドサンタ」のようにウェルメイドな、
という表現を使うには多少もの足りない面もあるが、
往年のファンが観ても楽しいはずと思うし、
オリジナルを知らなくても楽しめる、いい作品だと思う。
オリジナルのようにシリーズ化、というわけにはいかないだろうけど、
このベアーズにも、どこかでもう一度、出会ってみたい。
そう感じさせるだけの魅力は兼ね備えた作品だったと思う。