〝欲望百貨店〟にて…


午後イチの帰阪を前に、〝欲望百貨店〟伊勢丹をのぞく。
そういえば、東京が3カ月ぶりなのだから、伊勢丹も3カ月ぶり。
新宿の街を歩いて気づく。
きのうの渋谷でも感じたことだが、3カ月経つとだいぶ感じが変わる。
やはり、東京のペースってつくづくすごいな、とあらためて思う。


まずは、新しいのが欲しかったレザースニーカーを見に行く。
メンズ館の改装以来、ここの品ぞろえはやはりいい。たまらない。
値段もたまらないのが、玉にキズではあるのだが…
欲しいのは、ちょいと老朽化してきたカンペールのドタ靴の交代要員と、
いま気に入って愛用している、
ラクーダのショートブーツを長持ちさせるための、もう1足。
ここ2カ月ほど、気にはしていたのだが、全然いいのが見つからなかった。
スニーカーしかり、ショートブーツしかり、ハイカットしかり、
東京の店でもなかなかピンとくるのがない人間には、大阪では見つけられるはずがない。
まあ、伊勢丹に行けば何とかなるだろう、
という気軽さも手伝って、これまで保留し続けてきたタスクでもある。


しかし、恐ろしいことに〝欲望百貨店〟にはあるのである。
ピンときたらすぐ買うし、ピンとこなかったら買わない性質なのだが、これはピンときた。
〝PANTOFOLA D'ORO〟 だ。
おくさまは持っているのだ。
黒のレザースニーカー。信じられないくらい軽くって、色合い、スタイルともに最高。
うらやましいな、と思っていたのだが、当時はレディースしか見つからなかった。
その無念が一気に晴れるような「MITICA ELITE」の黒。
試しに履いてみると、本当にすごい。重さをまったく感じない。
金色に輝く星のステッチが微妙に華やか過ぎる感もあるが、たまらん逸品。
早くも決意を固める。


しかしもう1足、目に焼き付いて離れないハイカットを発見する。
秋冬の新作で「1950’s」とかいうモデル。
渋い焦げ茶に、微妙な玉虫色が混ざったような色合い。
ああ、たまらん。しかし、値段もたまらん。
いろいろ今後の予定なども、頭の中をぐるぐると回る。
両方とも買っていいものか、悪いものか…
あれも買わなきゃならないし、あれでもお金がいるし…
結局、安直な手段に出る。小さな声で「分割で…」
いいんだ。靴と服はめぐり逢い。一度逃したら、もうなかなか出逢えない。
そう自分に言い聞かせて(自己正当化して)、「ください」のひと言。
入店からここまで10分足らず。きみ、早過ぎないかい?


ともあれ、靴は文句なしの2足が手に入ったので、満足感でふくふく。
それじゃ、ということで定番のジャン=ポール・エヴァンへ。
香り豊穣な「ショコラ・ショー・カラカス」と、
ビターのアイスクリーム「ソルベ・カカオ・ナチュール」をいただく。
久しぶりのお味に、いつも通りトロトロにとろけていくのが実感できる。
しかし、こちらの体調なんだろうか、微妙に甘いような…
レシピが変わったとかいうこともないだろうし、気のせいだと思うが、
舌に残る甘さに、ほのかなしつこさを覚えてしまった。
気のせいであることを祈りつつ、店を出る。
きょうはこの後も出歩くので、テイクアウトはなし。無念。


続いて、ジャムを買いに行く。目的は「メゾン・フェルベール」。
いかにもヨーロッパの香りを感じさせる、フルーツの数々にうっとりする。
「選びきれないよぉ」という泣き言をグッとこらえ、
ルバーブ&りんご&パッション」と「パイナップル・バニラ」を購入。
「ああ、東京にいればいつでも買って帰ることができるのにぃ」
「おとっつぁん! それは言わない約束でしょ!」と、
ひとり脳内猿芝居を繰り広げて、売り場を去っていく。
ぶつぶつ言ってなかったか、ちょっと心配。


あとはお菓子だね。
「仙太郎」にて「お米で作ったカステラ」。
期限出店のマ・パティスリー「メゾン・グラス・アンジュ」にて、
フワフワとろける、スペイン・アンダルシア地方の伝統菓子「ボブボローネ」。
「メゾン・カイザー」にて、アプリコット、フィグ、さつまいものパンなど各種。


BPQCの「ボンジュール・レコード」では、やせ我慢を貫いた。
何でかというと、ちょうどiPODが調子悪いもんで、
何か気分が乗らなかっただけなのだが。
しかし、魅力的なCDはやたらといっぱいあったかも…
あーあ、本当によかったんだろうか。不安も残ったりする。


洋服については、一切目に入れない、という戦術で、欲望の魔宮から脱出する。
だって、見てしまったら袖を通すしかないし、
それで、袖を通してしまったら買うしかない。しかたないのだ。
「本当にいいのか? 本当にいいんだな? 本当にそれでよかったんだな?」
頭の中で悪魔がささやいていたが、無視することにした。
もしかして、僕って成長した?
序盤の買い物のことも忘れ、自分を褒めてあげる。ああ、何も成長していない。
自分が悪いのか、欲望百貨店が悪いのか…
いや、答えは誰の目にも明らかだけど、
答えを出さないのも、思いやりというもんじゃないかい?
そうやって自分をごまかし続け、ひさしぶりの東京を後にしたのだった。