梅田・三番街シネマで「Be Cool/ビー・クール」

mike-cat2005-09-05



マイアミの取り立て屋、チリ・パーマー=ジョン・トラヴォルタが、
ふとしたきっかけで憧れの映画界に足を踏み入れ、
ハリウッドの〝プレイヤー〟にのし上がっていく様を、
スタイリッシュな演出にブラックなジョークを散りばめて描いた、
傑作「ゲット・ショーティ」の約10年ぶりの続編だ。


チリの今回の標的は、音楽業界。
その華麗な歌声にほれ込んだリンダ・ムーア=クリスティナ・ミリアンを売り込むべく奔走する。
映画業界をはるかに上回るヤバい業界に足を踏み入れたチリ。
危ないギャングスタ・ラッパー連中にロックスター、
FBIにロシアン・マフィアまで巻き込み、音楽業界に旋風を巻き起こす−


前作も主演のトラヴォルタに加え、ジーン・ハックマンレネ・ルッソダニー・デヴィート
と豪華布陣だったが、今回はそれにも増して豪華なオールスター・キャストで臨む。
パルプ・フィクション」のリユニオンとなるユマ・サーマンを始め、新鋭アーティストにクリスティナ・ミリアン。
音楽プロモーターのニック・カー役で、「ゲット・ショーティ」では実名でカメオ出演していたハーヴェイ・カイテル
その間抜けな手下で、ラジ役のヴィンス・ヴォーンとエリオット役でザ・ロック
大物プロデューサー、シン・ラサールにセドリック・ジ・エンターテイナー、
そのお抱え人気ラッパー、ダブMD役にアウトキャストアンドレ・ベンジャミン。
ほかにもダニー・デヴィートジェームズ・ウッズセス・グリーン(ノンクレジット)と大物が並ぶ。
アーティストに目を移すと、
いずれも本人役でエアロスミススティーヴン・タイラーブラック・アイド・ピーズセルジオ・メンデス


前作でチリが製作した映画内映画「ゲット・リオ」の続編製作を、
自嘲気味に語るという、セルフパロディで始まるこの続編は、
その豪華キャストを存分に生かしたパロディ満載&豪華絢爛な作りとなっている。
「パルプ〜」をそのまんまパロディ化したトラヴォルタ&ユマのダンスシーンは、
ブラック・アイド・ピーズセルジオ・メンデスのライブシーンに載せる、という豪華ぶりだし、
すぐに銃を取り出すシン&ダブMDらギャングスタ・ラッパー連中は、
実際によく撃ち殺したり、撃ち殺されたり、などにぎやかなラッパーたちをそのままモデルにしている。


ジェームズ・ウッズのレコード会社社長なんかも、いかにもっぽい人物で苦笑してしまうし、
黒人ラッパーに憧れる間抜けな白人ギャングのヴィンス・ヴォーンも、
どこか実在の人物のパロディの雰囲気を醸し出している。
片マユをクイッと上げる得意のポーズを、そのまんま自作自演で揶揄してるザ・ロックもとにかく笑える。
エアロスミスとクリスティナ・ミリアンによるライブ・シーンなんて、
この映画だけで終わらせたくないほど、とんでもなくイカしてる(←古い表現)。


そんな中で、やり過ぎなくらいに笑いを取るのが、
ラジ=ヴィンス・ヴォーンと、エリオット=ザ・ロックの巨漢コンビだ。
ヴォーンなんて、今後のキャリアを心配したくなるほどのバカっぷりだ。
いや、最近はすっかりコメディづいているし、それだけ巧いというか、すごいのだろうけど、
悪趣味なファッションとバカしゃべりだけでも、もう筆舌し難いレベルに達している。
ザ・ロックだってセルフパロディだけにとどまらず、オカマちゃんキャラにまで挑戦だ。
あのキルステン・ダンストの「チアーズ!」の場面を再現する姿は、
例のTVのゴリエちゃんすら凌駕する、お笑いシーンに仕上がっている。
そして、この二人に乗せられるように、ほかのキャストも喜々としてバカをやってるのがまた楽しい。
スティーヴン・タイラーあたりも、セルフパロディかますのだから、もう悪乗りも極まれりだ。


しかし、そんなきらびやかでにぎやかな宝石箱みたいな「Be Cool/ビー・クール」なのだが、
映画そのものの出来、と考えるとずいぶんと話が違ってくる。ひとことでいえば、切れがない。
「ゲット・ショーティ」のスタイリッシュさと比べると、その差は歴然だ。
同じシリーズ作品でありながら、テイストから主人公のキャラクター設定まで、まるで違う
リーサル・ウェポン」と「リーサル・ウェポン4」ほどの大きな差異はないけれど、
同じエルモア・レナード原作の作品とは思えないほど、どこか野暮ったい印象がつきまとう。


今回の監督は「ミニミニ大作戦」のF・ゲイリー・グレイ。
脚本は「アナライズ・ユー」のピーター・スタインフェルド。
前作の監督&脚本コンビ、バリー・ソネンフェルド(「MIB」「アダムス・ファミリー」)と
スコット・フランク(「ザ・リング」「アウト・オブ・サイト」)とのセンスの差は、やはり随所に出てきてしまう。
加えて、トラヴォルタ&ユマの主演コンビが、
「パルプ〜」の当時と比べてやや輝きを失った感があるのも否めない。
(もちろん、「パルプ〜」直前までのトラヴォルタは、キャリアの危機だったけど…)
豪華な材料をただただ詰め込んだだけの演出に、
豪華なサブキャストの輝きに負けてしまったメインキャスト…
そんなわけで、トータルとしての映画の評価は、いまひとつになってしまうのだ。


たとえて言うなら、最高に楽しいバラエティ番組を見たような感覚だ。
118分の間、ずっと笑い続け、楽しく過ごすことはできる。
でも、それだけ。「ゲット・ショーティ」を観終わった後の爽快感とは、やはり違う。
作品の完成度の違い、といってもいいだろう。
あくまで映画作品の評価としては、格段の差があるといわざるを得ない。


それでも、だ。
「観るべきか、否か?」と訊ねられれば、迷うことなく「観るべき」と答えたい。
よく「〜だけでも観る価値がある」という表現があるが、
そんな「〜でも」を数えていけば、並の映画が太刀打ちできないほど満ちあふれている。
何はともあれ、観て損のない一本。
少なくとも、三番街シネマみたいな場末感たっぷりの劇場で、
「NANA」に隠れてひっそり公開されるような作品でないことだけは、間違いない。
もちろん、向こうでのコケッぷりも加味して、ということだろうけど…
そんなこんなで、複雑な想いが残るこの作品。
何でソネンフェルドがまたメガホンを取らなかったのか、つくづく惜しまれるのだった。