シネリーブル梅田で「チーム★アメリカ/ワールドポリス」

mike-cat2005-08-05



あの「サウスパーク」のトレイ・パーカー、マット・ストーンによる、
パペット・アクション・コメディ超大作だ。
映画ライター、町山智浩氏のブログで何度か取り上げられてたが、
いろいろと問題のありそうな、いわくつきの〝傑作〟だとか。
微妙な期待を抱きながら、上映に臨む。


テロが横行する世界を守るべく、結成された国際警察組織「チーム・アメリカ」。
テロリストはおろか、そこらへんの人々にも容赦のない反テロ活動が売り物だ。
大量破壊兵器を売りさばく某国(というか、思い切り実名で北朝鮮…)の情報を受け、
ブロードウェイ俳優のゲイリーをリクルート、おとり潜入捜査に参加させる。
某国の首領(というか、思い切り実名で金正日…)は、
反戦を訴えるハリウッド俳優を騙し、平和活動をでっち上げる一方で、
大規模テロを準備、チーム・アメリカを欺いて、世論の矢面に立たせるのだった…


とまあ、単純な図式では、世界の警察を(勝手に?)自認し、
やたらめったら〝平和に貢献〟しまくるアメリカをおちょくった映画だ。
冒頭のパリでの場面。
テロリストを発見するや、むちゃくちゃな発砲で周囲を巻き添えにし、
民間人を大量虐殺しちゃうわ、エッフェル塔は倒すわ、凱旋門は破壊するわ。
もしかしたら、テロの方がよっぽど被害が少ないんじゃ…、というぐらいのメチャクチャぶりだ。
ここらへんだけ観てると、現実のアメリカ軍を思い起こさせる部分も多く、
苦笑いしつつも、その過剰にカリカチュアライズされたアメリカっぷりを笑い飛ばせる。


しかし、なのだ。製作者のトレイ・パークは返す刀で、
そのアメリカの過剰なマッチョぶりを批判するハリウッド俳優たちをカマ野郎とこき下ろす。
何しろ、F.A.G(俳優組合)が、=カマ野郎だったりするし、
チーム・アメリカをディックと自認しつつも、
テロリストをアスホールと呼び、俳優たちをプッシー呼ばわりする。
ここらへん、ネタバレになってしまうんだが、
サミュエル・L・ジャクソンヘレン・ハント
ショーン・ペンティム・ロビンススーザン・サランドン夫妻と実名で登場するパペットが、
ちょっと考えられないような殺され方で、チーム・アメリカに退治される。
サウスパーク」で散々な扱いを受けたアレック・ボールドウィンなんか、
〝カマ野郎〟の代表として、またも散々な扱いを受けてみたりする。
個人的に恨みでもあるのだろうか。


俳優たちに対して
〝法外な大金を稼ぎ、安全な場所で安易な批判を繰り返してる〟
との批判なのかも知れないが、
どうにも単純なオチョクリだけで看過できない、異常ともいえる扱いなのだ。
華氏911」で、ノー・モア・ブッシュを掲げ、
体を張って大々的なブッシュ批判を展開したマイケル・ムーアだって、もうトンでもない扱いだ。
ホットドッグのケチャップとマスタードにまみれた、汚いデブ、だ。
いや、一応特徴はとらえているのかも知れないが、
洒落の域はかなり超越してしまった、強烈な悪意すら匂う描写になっている。


そうなると、この製作者はいったい何を言いたいのか、がわからなくなってくる。
たとえばポール・ヴァーホーヴェンの傑作「スターシップ・トゥルーパーズ」は、
ファシスト賛歌として批判されたハインラインの原作「宇宙の戦士」をもとに、
地球侵略を目論む宇宙の虫たちに立ち向かう地球軍の姿を、
ファシスト的に、それも徹底的にタカ派として描き、逆に強烈な批判とした作品だった。


しかし、この「チーム・アメリカ」は、
どこに批判の論点を置いているのか、正直理解できない。
つまり、まともな批判、風刺映画としてとらえると、
とてもじゃないが、まったくといっていいほど、楽しむことができない作品となる。
苦笑いを越えて「何もそこまで…」という戸惑いに包まれるのだ。
テロリストもバカばっかりだけど、それを退治する奴らはバカばかり、
しかし、反テロを訴える連中なんか、カマ野郎だ! 
みたいな、四方八方への乱れ打ちを見せられると、
「じゃあ、結局何が言いたいわけ?」となってしまう。


しかも、この映画はさまざまな人物を全方位的に、右左構わず、実名で茶化しているのに、
肝心かなめの人物を登場すらさせていない。
そう、ジョージ・W・ブッシュ大統領だ。
もちろん、ブッシュを出してしまうと、その描写に多くを割かずにはいられないので、
描きたいことが十分に描ききれない、という部分もあるだろう。
でも、やっぱり名前も姿も出てこないと、日和った、と考えるのが自然だろう。
ブッシュ批判で集中砲火を浴びたディクシー・チックスを観てもわかるように、
いまのアメリカの政情を考えると、無難な選択といわざるを得ない。
だが、オチョクっても危なくないヒトは徹底的にオチョクり、
オチョクったらやばいヒトは、名前すら出さない、というのでは、理屈が通らない。


だから、風刺映画、という観点で考えると、この映画ははっきりいって失格だ。
矛盾だらけで、スジの通った主張もない。
拗ねた子どもが、そこら中に「気に食わないんだよ!」と叫んでるのと、何ら変わらない。


ただ、単なるギャグとして観ると、話はまた別だ。
もちろん、政治的な立場からより離れる、ということは、
より為政者に対して、無批判な賛同を行っているのと同じだから、単純に割り切るのはよくないのだが、
単純にギャグとしてとらえれば、笑えるところはたっぷりと詰まっている。
まあ、やり過ぎはあるけども、そのセンスはなかなかだ。
マイケル・ベイを取り上げた失敗しちゃったよ、の歌とか、
モンタージュ技法(細かいカットの連続で、経過を短くまとめる)って、便利だな、の歌とか、
人形劇ならでは、のすっトボけた表情や、間抜けな動きをうまく使った部分とか、
細かいブラックユーモアは、やっぱりとてつもなく面白い。
そうそう、チーム出撃の場面に使う音楽もすごい。
「アメ〜リカ〜、ファックイェー!」だもの。もう、バカ一直線だ。


アクションをとってみても、ほとんどCGを使わず、
人形に生のアクションをさせているおかげで、妙な迫力を感じたり、
セックスシーンとかも、ヘンな生々しさを感じてしまったりと、これもまた面白い。
その出来のよさゆえに、
政治的な主張っぽい部分の空虚さや矛盾とかが際立ってはしまうのだが、
それはそれとして、見逃せない作品には仕上がっているといえるんじゃないだろうか。
ひとことで言えば、ムチャクチャな映画、ではあるんだけど、
面白い、という意味ではとことん面白かったりして、評価にものすごく戸惑う作品だ。


ちなみにこの作品、パンフレットは製作されず。
この前の「ブリジット・ジョーンズの日記」も製作されてなかったが、
あちらはたぶん著作権がらみだったと思う。
アルフィー」では、マリサ・トメイだけ写真が使われていなかったんだが、
あれは肖像権のからみだったんじゃないか、と勝手に推測。
この作品は、公開規模の問題もあるんだろうけど、
やっぱり訴訟を恐れて、なんだろうな。
ヘタに解説とかしたら、どこでとばっちりを食うか、わかったもんじゃないし。
ただ、こんな映画作っておきながら、トレイ・パーカーとか訴えられた、とは聞かないし…


そんなわけで、パンフレット代わりに町山氏のブログをもう一回眺める。
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040812
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20041010
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20041011
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20041012
パークたちとマイケル・ムーアの関係だとか、
パーカーたちが結局何を言いたかったのか、とかを、
自身のインタビューや「ローリング・ストーン」誌のインタビューを用いて解説してる。
そういえば、前に読んだはずだが、内容すっかり忘れていた。
「政治もわからないのに、選挙なんか行くんじゃない」というメッセージらしい。
ある意味、「華氏911」と反対の主張だな。
選挙に対する無力感もわかるが、何かいまいち納得できず。
ううん、結局何だかしゃっきりしないままになってしまった…