名駅はピカデリーで「ダニー・ザ・ドッグ」。

mike-cat2005-07-20



まだまだ、にゃごやだぎゃ…
しかし、ホントに松竹系の映画館って、
どこ行っても何ともいえない場末感が漂ってる気がする。
もちろん、劇場内部は改装してあるので、イスなんかはむしろいいのだが、
ざざ漏れの音が、隣の劇場から聞こえてくるのは勘弁して欲しい。
それも、なぜか「宇宙戦争」やってるから、ダコタの悲鳴だよ、また…


気を取り直して、「ダニー・ザ・ドッグ」だ。
アメリカでの公開タイトルは〝Unleashed〟(イギリスは「ダニー〜」)
辞書で調べると、解き放たれた、自由になる、とか、(攻撃を)浴びせる。
なるほど、ダブルというか、トリプルミーニングになってるわけだ。
「ダニー〜」の方がわかりやすいけど、個人的には米題がいいな。


キス・オブ・ザ・ドラゴン」以来となる、
リュック・ベッソン(製作/脚本)×ジェット・リーのコラボレーションだ。
当時はブリジット・フォンダ目当てで観たのだけれど、
アレはアレで、お好きなヒトに向けて作った映画として、悪くない作品だった。
その「キス〜」が好きだという友人が、「これはあんまり…」と言っていたため、
あんまり期待していなかったんだが、これもなかなか、悪くない。いや、それ以上。
ある意味では、とてもリュック・ベッソンらしい映画、
という言い方すらできるんじゃないだろうか。
(監督は僕の大好きな「トランスポーター」のルイ・レテリエだけど)


リュック・ベッソンというと、「グラン・ブルー」は別格として、
基本的には「ニキータ」「レオン」系の切ないテイストの映画と、
フィフス・エレメント」「Taxi」「トランスポーター」
(監督は「フィフス〜」のみだが)のおバカ系作品に大別できるだろう。
ミシェル・ヴァイヨン」も含め、僕はどちらもけっこう好きなのだけど、
一般的にはおバカ系が不当に差別されてるのがやや不満。
むしろ、「映画秘宝」言うところの〝男子中学生〟体質全開のおバカ系にこそ、
この映画作家の本質があるように思えてならないのけれど、いかがだろう。
もちろん、映画そのものの完成度、という問題から言えば、
ニキータ」「レオン」系の方が、ずっと上だとは思うのだけどね。


前置きが長くなったのだが、この「ダニー〜」は、
その二つのベッソン風味を兼ね備えた作品である、というトコがポイント。
舞台はスコットランドグラスゴー
主人公は、取り立て屋のバート=ボブ・ホスキンスの〝闘犬〟として飼われているダニー。
首輪を外された時、ダニーは殺人マシンとして、その驚くべき力を発揮する。
文字通り、犬として育てられ、幼い頃の記憶を失ったダニーの頭の中を、
時折よぎるのは、モーツァルトのピアノ・ソナタ11番の調べ。
だがある日、盲目の調律師サム=モーガン・フリーマンと出会った時、
ダニーの中で、何かが変わっていった…


ね、「愛を知らない殺人マシンが、愛を知った時…」が、
ニキータ」「レオン」系というか、平たく言うと、まるまるおんなじ話(笑)。
で、「人間が、闘犬として育てられた…」が、おバカ系のテイストを醸し出す。
おお、まさにベッソンの持ち味全開ぢゃないか。
ある意味では、ジェット・リー版「レオン」と言ってもいい。


問題を挙げ出せば、そりゃ、きりがないほど出てくるはずだ。
中国系のリーが(ホントはLiだから、〝リ〟にはずだが…)、
犬同然の生活を送り、まともな言葉も知らない、というのは、
正直、西欧諸国におけるアジア人差別をどこか思わせて、微妙に辛い。
リーのアクションを見慣れたせいもあるのだろうけど、
次々と繰り出すパンチやキックに、どこか軽さを感じてしまうのも、やや興醒めだ。
脚本そのものも甘く、ストーリーそのもの流れとしては、
通り一遍の物語をなぞっているだけ、との批判は免れないだろう。
モーガン・フリーマンも、もちろん安定して素晴らしいのだけれど、
このヒトはある意味、いるだけで映画の雰囲気を変えてしまう、超越した存在なので、
このヒトの存在をもって、映画の出来不出来を語るのは、何か違う気もする。


だけど、この映画、小細工はなかなか気が利いているのだ。
たとえば、ダニーのはめている首輪。
その、外れる際の効果音、ビジュアル…。
これがまた、やけに凝ってて、はっきり言って、けっこうカッコいい。
たとえば、ダニーのこころを開く、サムの義理の娘ヴィクトリアの配役。
このケリー・コンドン(「アンジェラの灰」)が、また渋い。
別に、特別目を見張る美人ではないのだけれど、いわゆる〝目ぢから〟がすごい。
リーの得意技、子犬系の瞳に対抗できるだけの、
説得力と無邪気さを兼ね備えた、真っすぐな視線。
これだけでも、配役の勝利、を宣言したいトコだけど、これに歯列矯正をかませる。
そんなの、反則だ。
別に僕はそういう趣味じゃないけど、この映画での、この役では見事にツボにはまった。
「レオン」でナタリー・ポートマンを見出した、
ベッソンの嗜好(ロ×コ×)がうまいことぼかされながらも、しっかりと効果をもたらしている。
ほかにも、出てくるクルマのチョイスとか、
いかにもクルマ好きのベッソンの〝男子中学生〟趣味が、アクセル全開で発揮されてる。
そして、グラスゴーの冷たく湿って、寂れた情景。
このもの悲しい雰囲気、これだけでもかなり迫ってくるものがある。


しかし、僕が何よりハマったのが、あまりにベタなダニーの〝飼育状況〟演出だ。
鉄格子で仕切られた、床下収納っぽい檻に閉じこめられた、ダニーの心の支え。
ぼろぼろになった、ぬいぐるみのクマちゃんと、擦り切れたアルファベットのえほん…。
あまりに陳腐で、あまりに見え透いてるのに、完全に弱点を突かれた。
不覚にも涙が流れる。おかしい、無意識下のトラウマでもあるのか→自分。


以上、こういう細かい点に弱いのが、
「ディテイルにこそ神は宿る」が信条(それは信条とはいわん…)の僕なので、
この、ベッソンだけでも何度も作っている〝ありふれた話〟が、グググと胸に迫る。
まあ、このキャスト、この設定で、
もっといい作品になり得る要素があるので、決して100%満足はしてない。
けど、コレはコレで、なかなかいいんじゃないの、と思ってしまうのだ。
一般的には、〝レンタル好適品〟の誹りを免れないことは承知しているが、
僕個人としては、〝1800円払っても惜しくない〟の称号を差し上げたい。
もちろん、責任を取れ! と言われたら、リンダ困っちゃう、なのだけど。