櫛田節子「ロズウェルなんか知らない」。

mike-cat2005-07-15



実は、櫛田節子の読むのはお初。
直木賞作品の「女たちのジハード (集英社文庫)」とか、特に読む機会もなかった。
しかし、平積みになってたこの本をたまたま見かけて、何となく気になった。
そう、もちろんロズウェル、の文字に反応したわけだが。
1947年、宇宙人が回収された、といわれるあのアメリカのロズウェルだ。
そして、オビが〝地方の未来を真面目にわらう!!〟
「UFOによる、地域おこしの顛末記」というとこかな、と容易に想像がつくのだが、
何となく、荻原浩の「メリーゴーランド」に通じる感じで、
軽く読めそうと思い、手に取ってみる。


東京から車で6時間の寒村、駒木野町。
かつては貧相なスキー場による観光が主な収入源だった町も、
スキー場撤退で、残るは潰れるのを待つばかり、という旧態依然の民宿を残すだけだ。
気の利いた若者は東京へ向かい、残るは家庭の事情で地域に縛り付けられた、
30代後半以上の青年たちと、その親の世代ばかりとなった。
そう、つまり過疎化。「2030年人口ゼロ」の危機に向けて、
立ち上がった泰夫ら青年クラブの面々は、ひょんなきっかけから、
UFOなどの怪奇現象を目玉に、地域活性化を目指すことになった。


もちろん、そんな簡単に地域おこしなど、できるわけがない。
何しろ、もとはハード、ソフト両面から何もない土地なのだ。
ほとんど持ち出しで企画したツアーも、
旅行会社のアンケートの回答には「非常に悪い」のオンパレード。
それもムリはない。
〝民宿黎明期に建てられて、改築増築の重ねられたつぎはぎの建物、
 老朽化した設備、行き届かないメンテナンス。
 さらに「うちは百姓やっても食っていけるんだ」と言わんばかりの、
 横柄な態度の親父までついてくるのだから最悪だ。
 首都圏からいちばん近いスキー場というだけで、殿様商売をしていた数十年の歴史が、
 こういう民宿を作ってしまった。そうして腐ったような民宿が
 狭い斜面に重なり合うようにしてへばりついているのが、駒木野民宿村なのだ〟
いや、誰も好きこのんで泊まりたくない、というか、
逆にお金もらっても行きたくない土地、なのだ。


だが、そんなところでも、何とか人を呼ばないことには、町はなくなってしまうのだ。
だから、泰夫たちはオカルトにしがみついてでも、地域おこしに励むことになる。
もちろん、障害はある。
腐った民宿を変えようともせず、無反省に文句を並べる親父世代だ。
「撤退したスキー場が悪い」
「ゴルフ場を招致できなかったのだが悪い」
「中央から寄付金を引っ張ってこれない行政が悪い」
ここらへん、とてもステレオタイプな描き方ではあるのだが、
実際、こうした構図は多いのだろうな、という気もする。
結局、足を引っ張るのは、エゴに満ちた地域のしがらみ、という感じで。
この連中は、状況がよくなったらよくなったで、悪くなったら悪くなったらで、
何度でも手のひらを返す。そのエゴイスティックさといったら、正直醜悪だ。
そうなると、単純に滑稽では割り切れない。
もどかしいばかりの苦闘は、正直いじましくもあり、切なくもある。


ただ、作品全体のトーンからは、
そうした地方の問題にメスを入れる、という意図はあまり感じられない。
あくまで、物語のモチーフとして、こうした地方寒村の現状があるだけで、
ある意味、物語自体は非常に普遍的なストーリーでもある。
そこらへんが、軽く読めるエンタテイメント的な部分でもあり、
一方で、読み終えて特別な感慨を覚えない部分でもあるのかも知れない。
ただ、そのラストに向けての爽快感は、なかなかやるな、という感じ。
現実的には、なかなか解決の糸口が見えないはずの問題に、
軽妙な笑いを誘う、いい意味での〝開き直り〟がある。
それを読むと、「おっ、これなら駒木野に行ってみてもいい」。
そう思わせるだけの魅力が、この寒村に湧いてくる。うまいな、というのが率直な感想だ。


で、前述の通り、読み終えて特別な感慨のないこの小説で、
いちばん印象深かったのは、物語の本筋とは関係ないところだ。
食い詰めて駒木野に流れてきた元コピーライター、鏑木というのがいる。
これが、安直なゲーム本で一発当てて、その後はさっぱり、というオトコ。
こいつが、アイデア枯渇気味の駒木野青年クラブ(40代目前だが…)に、知恵をつける。
あっという間に儲けを食いつぶした後、
地元千葉に戻った当時の生活の様子が、非常に面白いのだ。
「浦安に住んでたの。ディズニーランドの真ん前。いいでしょ。
 店なんか周りに何にもないからさぁ。
 年間チケット買って、買い物も食事もディズニーランドですますって日々だよ。
 でもディズニーランドが日常って生活、結構、気に入ってたんだ。
 遊園地的日常っていうか、生活がワンダーランド化してるって、ちょっといいじゃない」
まあ、こういうヤツだから、地域の〝ワンダーランド化〟にもアイデアが出るのだろう。


だが、それは置いておいて、この「ディズニーランド生活」だ。
まず、現実問題としては、オカネ的にかなりきつい。だって、食事でも何でも高いから…
それに、さすがのディズニーストアでも、生活必需品のすべては賄えない。
だから、あくまで仮定の話となる。
しかし、その現実的な制約を振り払ったとしても、この生活ができるのか、という部分が興味深い。
僕もたいていディズニーランドは好きだが、この生活は1週間が限度かな、とは思う。
だって、食事はまずいし、混むし、どんなライドでも、毎日は乗りたくないし…
でも、一度試してみたい、という気はする。
オフィシャルホテルに泊まって、というやつでも、どのくらいで嫌気がさすのか。
もしかしたら、ハマってしまうかもしれないし、と思うと、想像は尽きない。
作者の意図を、まるで無視した読み方になってしまったが、そういう意味でも、なかなか、の本だった。
ほめてるんだか、けなしてるんだか、いまいち微妙な書き方になってしまったけど、ね。