シネリーブル梅田で「オープン・ウォーター」

mike-cat2005-06-27



ちょっとワーカホリック気味の夫婦、スーザンとダニエルは、
やっと取れた休暇を使って、カリブ海へのバカンスに向かう。
お目当ては、外洋上でのスキューバ・ダイビングだ。
グループ・ツアーのボートで沖合に出て、海中の景色を楽しむ二人。
お楽しみの時間を終え、海上に出た二人の目前に広がるのは、
果てしない海、海、海…
人数を数え間違えたボートは、二人を置いたまま帰ってしまったのだった。


昨年1月のサンダンス映画祭で話題をさらった低予算のアイデア映画。
〝海の「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」〟とも言われたそうだ。
ちなみに映画そのものは「ブレア・ウィッチ〜」よりはずっと面白かったと思う。
オーストラリアはグレート・バリア・リーフで起こった実際の事件をもとに、
「もし、海に置いていかれたら…」という恐怖を、静かなタッチで描く。
TVスポットでやってる、ホットペッパー風のお笑い吹き替え予告は、
なかなか面白いな、とは思うが、派手な展開を期待すると、裏切られる。


率直にいうと、かなり地味。
いわゆるパニック映画的な、「キャー!」とかいう黄色い声をあげる場面はない。
サメは出てくるけど、「ジョーズ」みたいな直接的描写はあまりない。
「サメがいる、どうしよう…」という心理的な不安、圧迫を、
スーザンとダニエルの表情などを通じて、じわじわとあおり立てる。
そして、海面に時折のぞく、サメの背びれ、
青い水の下を、通り過ぎるサメのグレーの背中…
ある意味、大口開けた巨大サメよりも、リアルに怖い。


それは〝置いてけぼり〟の恐怖描写にも通じる。
足の立たない海の上、見えるのは360度パノラマで海、海、海…
波が体を常に揺らし、視界をさえぎる。
アトラクション的な恐怖描写はなくとも、不安感はじわじわと募っていく。
遠泳の経験がある人にはおわかりと思うが、
波間に漂っている時の、あの究極の足元不如意な感覚。
想像を膨らましていけば、その恐怖は無限大ともなる。
スーザン、ダニエルの感情に、自らの気分をシンクロさせていけば、
背中を走る恐怖に、ゾクゾクし通しの79分が味わえる。


微妙な関係に陥りつつあった、スーザンとダニエルの諍いも、面白い。
言わなくてもいい、言ってもどうにもならない愚痴と非難の数々だ。
「あなたがウツボなんかいつまでも見てるからよ」とか
「君がもっと早く、仕事の都合をつけてくれれば…」とか、そういうやつ。
スーザンが口火を切り、ダニエルがキレまくって吠えたてる。
どうにもならない不安を抱える中、
さらにストレスを増大させていく人間の性が、怖くも滑稽だ。
ちなみに二人の対決は、スーザンが「スキーに行きたかった!」発言で圧勝。
愚痴るダニエルに思いっきり苛立ちを見せ、非難する。
自分だって、ずっと愚痴愚痴言ってたくせに…


実際の事件は〝現代のマリー・セレスト号事件〟とも呼ばれているという。
取り残された二人が、見つかることはなかったが、ナゾは残った。
「人生はいまがピーク。あとは落ちるだけ…」みたいなナゾの遺書めいた日記、
そして、保険金詐欺を思わせるような、過去の事件との奇妙な符号…
そうした、ミステリー的要素を含んだとも思われるラストは、
多少説明不足にも思えるが、何だか非常に奇妙な後味を残す。
映画の終盤でスーザンが見せる、何ともいえない目つきが、
観た者のこころに微妙な不安を植えつけるのだ。よしてちょうだい…


予告とか、ポスターのビジュアルそのままの映画を期待すると、
肩透かしをくらうかもしれないが、じわじわスリラーがお好きなヒトにはグイッとくる。
傑作とまではいわないが、アイデアの効いた、ピリッとスパイシーな佳作。
キューバ・ダイビング人口の激減に貢献しそうな映画だな、と思ったら、
パンフレットにこうあった。
実際の事件があった後、グレート・バリア・リーフへの観光客は激減した…
そりゃ、そうだよな。考えただけでたまらないもの。
作品中のダニエルの言葉が甦る。
「大金払って、サメのエサかよ!!」。いや、これぞ心の叫び…