新宿武蔵野館で「最後の恋のはじめ方」

mike-cat2005-06-04



何とかならないのかい、この邦題。
そりゃ原題の〝HITCH(引っかける、引っ張る)〟じゃ、
なかなか伝わらないかもしれないが、あまりに陳腐じゃないの?
このテのラブ・コメディはたいてい、「恋の〜」「愛の〜」だの
ありふれた邦題にされてしまうのが常だが、つくづくこの邦題にはちょっと…


何でそんなにタイトルが不満か、というと、
この映画がとてもウェルメイドなロマンス・コメディで、
こんなありふれた邦題が原因となって、見逃す人がいたらたまらんし、
その上、観終わって、何でこのタイトルになったのか、いまいちわからないから。
最後の、は〝恋〟にかかってるのか、〝はじめ方〟にかかってるのかすら不明。
ううん、ホントに何とかして欲しい。


で、そこらへんはおいておいて、映画のあらまし。
アレックス・〝ヒッチ〟・ヒッチンス=ウィル・スミスは、俗にいう「デート・ドクター」。
恋に自信のない依頼人と、意中の女性との間を取りもつべく、
アドバイスを送ったり、ちょっとしたきっかけ作りを〝演出〟してみたり。
しかし、そんな〝恋の達人〟ヒッチも、自身の恋愛はというと、なぜかさっぱり。
仕事中毒のゴシップ記者、サラ=エヴァ・メンデスとの出逢いも、どうも波乱含みだ。
ある日、資産マネジメント事務所に勤めるアルバート=ケヴィン・ジェームズと、
資産家の令嬢アレグラ=アンヴァー・ヴァレッタの恋愛をまとめたヒッチだが、
NYきってのセレブ、アレグラの恋愛は、ゴシップのネタともなって…


まあいつも言っていることだけど、たぶん数百回は作られたようなプロットではある。
「デート・ドクター」を明確に職業としているあたりが、ややオリジナルか。
おおげさにいえば、映画界に何の新境地も開いていない作品であることは、認める。
でも、そういう映画だからこそ、センスがものをいう。
で、この作品はどうか、というと、そこらへんのセンスが抜群にいいのだ。
たとえば、舞台とするNYの描写。
まあ、この街はたいていどこを撮っても絵になるんだが、
この映画が描き出すのは最新のものを含め、新旧とりまぜた、生きたNYの風景だ。
最新のお店から、移民の国、アメリカを象徴するエリス・アイランドまで…
もちろん多少の美化はあるのだが、観光客の視点ではなく、
生活する場所としての美しいNYが、そこかしこに散りばめられている。
洋服なんかも、センスのいいワードローブをさりげなく見せてくれる。
あ、あれ欲しいな、と思わずうなる。本当にうまい。


そして音楽。スティーヴィー・ワンダーの名曲
「Don't You Worry 'Bout Thing」を、ジョン・レジェンドがカバーなど、
(この曲、インコグニートによるカバーも最高だったが…)
いわゆるオールディーズをうまく活用してみたり、
アッシャーだの、エイメリーだの、といった、今、のアーティストも使ってみたり。
映画が終わると、思わずタワレコにでも寄ってみたくなる、そんな音楽が映画全編を彩る。


そして、キャストがいい。
まず、ウィル・スミスにここまで明確なコメディをやらせる、というのがナイスアイデアだ。
「アイ、ロボット」「アリ」みたいなマッチョさを前面に出した映画もいいし、
「バッド・ボーイズ」のシリーズみたいに、マーティン・ローレンスに3枚目を任せるのもいい。
でも「MIB」のシリーズで出している、トボけた味。
あれを前面に押し出した映画って、実はいままでなかった気がする。
見逃しているだけかもしれんが…。


この映画では、自分の恋愛ではドジばかりを繰り返す愛すべきキャラを演じる。
「デート・ドクター」も最初は、イヤな職業に聞こえるが、ちょっと違う。
確かに、こういう部分を大事にしろ、こういうことはするべきじゃない、というアドバイスはする。
だが、そこに姑息さはない。
中谷某の書くような、マニュアルを教え込むのとは、まったく違うのだ。
そして、依頼人を選ぶ基準も厳しい。
「あのオンナをオトしたい」みたいなオトコは、一切お断り。
真剣に恋をしているけど、どうやってきっかけを作っていいのか、わからない。
そんな切実な願いを持つ依頼人の後押しこそが、彼の仕事だ。
だから、観ていてイヤな感じがない。
だから、ハッピーなコメディがまったく阻害されることがないのだ。
ちなみに、若き〝ヒッチ〟も登場するが、これはもう、爆笑ものだ。お楽しみに。


気のいいデブちん、アルバートを演じるケヴィン・ジェームズも最高に笑わせてくれる。
元はスタンダップ・コメディアン。これまではテレビ畑のヒトらしく、映画は初出演とか。
しかし、このヒトはいい。
にじみ出るような性格のよさと、スラップスティックを体現するような動き。
思わず応援したくなるような味があるキャラクターを、見事に演じている。
高根の花のセレブに恋して、ドジばかり繰り返すシーンはもう最高だ。


エヴァ・メンデスも、これまでにないほどいい。
この人、いままでは扱われ方にも問題があったせいか、
どうにも濃ゆすぎて、中途半端なお色気要員の感がどうしても抜けなかった。
しかし、キャリア重視のゴシップ記者を演じたこの作品では、
うまく抑えて、洗練されたセクシーで勝負する。
それだけでなく、うまい具合に、かわいさも見せつけてみたりする。
まあ、ゴシップ記者があんなにスマートな仕事じゃないことは間違いないんだが、
そこらへんのリアリティまで追求するとキリがないんで、まあよしとする。


で、ストーリーなんだが、こちらもいい。
王道のラブコメを、軽妙なテンポで、しかもスタイリッシュにまとめてる。
監督のアンディ・テナントはドリュー・バリモアの「エバー・アフター」や
リース・ウィザースプーンの「メラニーが行く!」を撮っている人。
(そういえばこの原題も名曲にちなんだ〝SWEET HOME ALABAMA〟だったが、この邦題…)
メラニー〜」は、笑わせるけど、そこかしこに繊細さも見えて、けっこう好きな作品だった。


だからだろうか、「メラニー〜」もそうだったが、この作品でも、
とにかくハッピーな映画を作ろう、としているのが、映画の端々から強く伝わってくる。
こういう映画は、ありふれているからこそ、雑な感情描写があると、
途端にノレなくなってくるんだが、様々な難しい部分をうまいこと消化している。
お約束ともいえるようなラスト、そしてエンディングも、思わず頬がほころぶ。
意外性なんか、特別ない。
でも、思わず嬉しくなってしまう、そんなハッピーエンドだ。


人生の1本、だとか、ことしのベスト1には決してなりえない映画だ。
だけど、何だかまたもう一回観たくなるような、いい作品。
観る人を、ハッピーにしてくれる映画でもある。
肩ひじ張らずに、そして小難しいことをいわずに、ぜひに観に行ってほしい。
もちろん、こういう映画が嫌いな人にはお勧めしないが、
こういう映画がお好きなヒトには、もうたまらない映画のはずだ。
先日同じようなほめ方をした「デンジャラス・ビューティー2」よりも、
さらに星ひとつ多めの、楽しい映画であることは、保証付きだ。