ユナイテッドシネマズとしまえんで「ザ・インタープリター」

mike-cat2005-05-22



ザ・ファーム/法律事務所」のシドニー・ポラック監督、
主演は「ミスティック・リバー」のショーン・ペンに、
めぐりあう時間たち」のニコール・キッドマン
そして、製作総指揮には
イングリッシュ・ペイシェント」のアンソニー・ミンゲラ
監督賞、作品賞に主演男優賞、主演女優賞…
さあ、みんなで獲得したアカデミー賞はいったいいくつでしょう?
、というくらいの布陣で送る、ハリウッド正統派のサスペンス大作だ。


国連通訳のシルヴィア・ブルーム=ニコール・キッドマンはある日偶然、
ニューヨーク・国連本部での暗殺計画を耳にしてしまう。
暗殺対象は、アフリカの小国ガンボの独裁者、ズワーニ大統領。
マトボ出身で、二重国籍を有するシルヴィアにとっても、深いかかわりのある人物だ。
当局はさっそくシークレット・サービスを派遣、トビン・ケラー=ショーン・ペンらを送り込む。
しかし、陰謀に巻き込まれたはずのシルヴィア自身にも、何か秘密を抱えていた。


いかにも、シドニー・ポラック印のサスペンスだ。
奇をてらうことなく、オーソドックスに事件の推移を描いていく。
目新しさはまったくといってないが、まあ安心して観ていられる。
この〝安心して〟というのが、サスペンスでは微妙な気もするが、
どんでん返しに次ぐどんでん返しで、しまいにはワケわからなくなる作品よりは、まあましだ。
さすがポラックというのは、史上初(らしい)の国連本部でのロケ敢行。
国際政治の晴れ舞台を狙った暗殺計画、というのはなかなか興味深い。
オスカー受賞者軍団にふさわしい舞台設定でもある。


映画のメッセージも、なかなか壮大だ。
ケラーも、シルヴィアも、愛する人を失った哀しみを抱えて生きている。
そんなふたりの会話の中で、マトボのクー族の教えが説かれる。
クー族の裁きでは、犯人を縛って川にぶち込むのだという。
被害者遺族が犯人を赦し、救えば、遺族は悲しみから解放される。
赦すことができず、溺れ死ぬのを見届けた時は、復讐こそなされるが、
遺族は喪に服したまま、悲しみからは解放されない。
世界警察よろしくブッシュがあっちこっちで対テロの戦争を仕掛ける中、
暴力と哀しみの連鎖を断ち切ることこそ勇気だ、と訴えかけてくるのだ。
まあ、とりあえずはとても高邁な精神だ。
被害者の遺族が観たら、「ふざけるな、その悲しみも知らないで」と、
憤るかもしれないが、正論ではある。
これにまで文句をつけてもしかたないので、これはよしとしよう。


この映画の問題点はむしろ、ほかにある。
まずは、シークレット・サービスがあまりに間抜けなのだ。
アメリカでも有数の国務機関が、やたらと出し抜かれる。
それも、単なる通訳(のはずの)シルヴィアにまで、尾行が撒かれる。
シルヴィアが自宅からベスパでお出かけしたくらいで、「SHIT!」だ。
何だよ、そのくらいの準備しておけよ、という感じ。
かなり重要人物のはずのシルヴィアから、けっこう簡単に目を外す。
だいいち、暗殺計画の重要証人が、そんな自由に行動できるのかい?
ペン演じるケラー捜査官も、やたらと色んなことに手を出しているし、
どう見ても公私混同しているとしか思えない行動がちらほら…
ついでに、少しネタバレになるけど、
それなりに事情のあるシルヴィアみたいな人物を国連って雇うの? という疑問も…


つまり、政治サスペンスにしては、だいぶ詰めの甘い部分が目立つのだ。
すべては、ドラマを盛り上げるため、と思って、目をつぶってみるのもテではある。
しかし、度重なるシークレット・サービスの失態を見ていると、
それもややきついんじゃないだろうか、というのが正直なところだ。
僕はここらヘン、けっこう甘い方だと思うから、厳しいヒトはバッサリ!だと思う。
ひとこと「荒唐無稽」と…


ただ、だ。
もしも、もしも、それに目をつぶることができたら、この映画はそう、悪いもんじゃない。
僕なんかは、ペン、キッドマンがともに大好きなので、
このふたりの演技を観ていると思えば、約2時間はたやすくしのげる。
ペンの哀しみと憂いをたたえた瞳、キッドマンの苦悩の表情、
オーバーアクトの一歩手前で抑えた演技は、やはりさすがのもの。
キャスリーン・キーナーら脇を固める出演者たちも、ドラマをもり立てている。
こうした名優ぞろいのキャストを演出するのは、ポラックにはお手のものだろう。
実績のない監督だったら暴走しかねないスターたちを、
それなりにまとめあげているのは、
やはりポラックの名前なんじゃないかな、というのは想像だが。


もし、100点満点で採点するなら、75点以上、80点以下、だろうか。
観て、損はしないけど、決して必見じゃない。
まあ、予想どおりといえば、予想どおりではある。
この監督、僕のイメージでは、
キャストや舞台設定もあって、まずまず魅せる映画を作るが、
驚くような傑作に、めぐりあうチャンスはかなり少ないヒト。
いや、「愛と哀しみの果て」とかの時代はともかく、なんだが、
この作品を観て、やはり過去の人なんだな、とあらためて感じてしまった。
必ず70点前後のジョエル・シュマッカーよりは、ましだが、
やはり、〝監督、シドニーポラック〟だけで観に行こう、とはならなそうだ。


そこそこ楽しめはしたんだけど、こうして文章にすると、
かなり辛辣な感じになってしまうのは、やはり興奮も醒めたからだろう。
そうして考えると、こうして感想を書き出してみるのも、功罪相半ば、だったりして。
いまさらにして、そんなコトも思ってみるのだった。