恵比寿ガーデンシネマで「ライフ・アクアティック」

mike-cat2005-05-21



出張のため、前日から東京。
昨夜は千駄ケ谷のモロッコ料理「カハワ」で、
羊肉ソーセージのシチュー仕立てwithクスクスと、
レンズ豆のサラダをいただく。
http://www.qahwa.jp/
http://www.elle.co.jp/atable/data/rguide/show.php?id=341
相変わらず、辛さはないけど、多彩なスパイスが味わい深い。
クスクスもここのは粒が細かくて、独特の味わい。
お手軽なひとりメシもできるし、ほんといいお店だ。
これで営業時間が24時から25時まで延びれば、ホント最高なのに…


で、本日はちょっと早起きして恵比寿に向かう。
〝The Life Aquatic with Steve Zissou 〟
東京では7日公開なのに、大阪ではまだ未公開。
ううん、くやちい。との思いを晴らすべく、長〜〜〜い遊歩道を突き進んだ。


天才マックスの世界」(〝RUSHMORE〟)
ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のウェス・アンダーソンの最新作。
宣伝コピーを見ると〝鬼才〟と書いてある。
確かに〝鬼才〟だよなあ、とけっこう納得。
天才マックスの世界」は、英語版のDVDで観ただけなので、
難しい会話とか全然わからないんだが、まあひとことでいえば〝ヘンで面白い映画〟
「ロイヤル・テネンバウムズ」だって、すんごい面白かったけど、
やっぱり最大の特徴は〝ヘン〟もしくは〝どっかヘン〟ということに尽きる。
ヘンな映画を撮る監督=鬼才、というのはなるほど、言い得て妙でもある。
だって「ストーリーテリング」のトッド・ソロンズとか、
焼け石に水」「8人の女たち」のフランソワ・オゾンとか、やっぱりどこかヘンだもの…


話を元に戻すと、この「ライフ・アクアティック」も当然、ヘンな映画だ。
主役はビル・マーレイ演ずる海洋学者ズィスーと、その仲間たち。
海洋ドキュメンタリーの巨匠だったズイスーも最近はすっかり落ち目。
古株の仲間を〝ジャガー・シャーク〟に喰われた際の作品も不評。
妻で、スポンサーで、知恵袋だったエレノア=アンジェリカ・ヒューストンにも見離され、
すっかり落ち込んだズィスーのもとに、
生き別れだった息子ネッド=オーウェン・ウィルソンが現れる。
資金繰りも何とメドがついたズィスーは、〝ジャガー・シャーク〟追討の探検のため、
ネッドをチーム・ズィスーに加えることを決める。
ナゾの妊婦ジャーナリスト、ジェーン=ケイト・ブランシェットも加わり、
探検は、はじめからすっかり混乱模様に…


まずは、この登場人物たち。これまでのアンダーソン作品同様、ヘンなひとたちばかり。
プラトーン」のウィレム・デフォーなんかも、ドイツ人クルー役で出ているんだが、
これが、ズィスーに憧れるばかりに、ネッドに嫉妬の炎を燃やす、いじけ系キャラ。
ズィスーのお金持ちライバル、ヘネシーは、ジェフ・ゴールドブラムが喜々として演じている。
「ロイヤル・テネンバウムズ」の兄妹ほど特殊なヘンさじゃないけど、
それぞれがズレたリズムで、終始、笑える不協和音を醸し出す。
それでいていい感じにチームになっているあたり、そのさじ加減たるや、
やはり〝鬼才〟の鬼才たるゆえんを感じさせたりもするのだが。


音楽は、大傑作「シティ・オブ・ゴッド」にも出演していたセウ・ジョルジ。
トボけた船員役のペレで登場したジョルジが、
ボサノバ風のアレンジをほどこしたデビッド・ボウイのナンバーを奏でる。
これがまた絶妙。
だる〜い倦怠の中に、微妙に〝もののあはれ〟を感じさせる。
ここらへんにも、アンダーソン独特のセンスなのだろう。


そして、この作品のウリは、なによりもその独特の映像世界だ。
こどものころに見た、海洋図鑑(それもあやしげなやつ…)を、
そのまま映画化したようなチープでキッチュな不思議なビジュアル。
ズィスーの愛船ベラフォンテ号(ベラフォンテ、ねぇ…)の断面図を、
そのままドラマに挿入しているような場面なんか、ほんとゾクゾクする。
船底の下で、偵察カメラを取りつけられたイルカちゃんが泳いでるのも、ナイス♪
出てくるサカナたちも極彩色、いい感じにチープな色合いだ。
ペイズリー柄のタコだとか、虹色のタツノオトシゴだとか、ダイヤ入り?マグロだとか…
これが「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」のヘンリー・セリックによる、
ストップモーション・アニメで、これまたいい感じにぎこちなく動く。
ズィスー自身のニセモノくささ、というか胡散くささと相まって、
まるで古きよき「川口浩探検隊」のような、B級感を漂わせる。


そして、ストーリー。
これはアンダーソン作品でおなじみ、父と息子、そして家族をモチーフにしている。
傲岸でいいかげん、身勝手でわがままな父親ズィスーは、
「ロイヤル・テネンバウムズ」でジーン・ハックマンが演じたロイヤル親父に近い。
終始すっとぼけた感じで、減らず口をたたき続ける。
落ち目になっても、ロクに反省しない、いわゆる〝懲りないクチ〟。
家族同様に集うチーム・ズィスーの結束を揺るがすのはいつもズィスー自身だ。
それでも、人を惹きつける力は、まるで太陽のごとし、のホント困ったちゃん。
多少の中だるみはあるけど、そのズィスーのパワーで、
ストーリーはなかなか力強く進んでいく。
118分の上映時間は、気持ちやや長めにも感じるが、
微妙にユルい雰囲気で楽しめる、やっぱり〝ヘンな作品〟だ。
途中出てくる犬の扱いについて、僕的には多少不満が残るんだが、
まあ、それもズィスーのキャラクターを率直に表しているんだろうし、
そういう人の悪さが、アンダーソンの持ち味でもあるだろうから、ぎりぎりヨシとしたい。


期待していた通りの作品に満足しながら、ガーデン・ウォークを恵比寿駅に向かう。
早起きしてでも観に行った甲斐があった、というもの。
まさしく〝早起きは三文の得〟、と過去の失敗をすっかり忘れて悦に入る。
実はきょう30ウン歳の誕生日。
いくつになっても、この無反省ぶり、変わりそうにないな、とあらためて実感したのだった。