松尾由美「スパイク (光文社文庫)」

mike-cat2005-04-02



雨恋」の感動さめやらぬ中、読んでみる。
なにしろ、犬が主人公。たまらん。
ネコ飼いのくせに、とは思うのだが、犬は犬ですごく好きだ。
ネコにはない、ストレートな愛ってのにもけっこう憧れる。
以前観た「マイ・ドッグ・スキップ [DVD]」なんて、映画始まって30秒で泣いた。
ちなみに、この原作を書いたウィリー・モリスがその後
男の相棒は猫に限る―マイ・キャット・スピット・マギー」なんて書いて、
〝転向〟していたのには笑ったが…
マイ・ドッグ・スキップ [DVD] 男の相棒は猫に限る―マイ・キャット・スピット・マギー
そうそう、もちろん「ウォッチャーズ〈上〉 (文春文庫)」「ウォッチャーズ〈下〉 (文春文庫)」も泣いた。
あのゴールデン・レトリバーアインシュタインには、もう…


で、設定が強烈にそそる。内容紹介を要約すると、
ある日、愛犬のスパイクと散歩していた緑は、
何から何までそっくりのビーグル犬を連れた幹夫と出会う。
その犬の名も何とスパイク。
奇妙な偶然で知り合ったふたりは、次の土曜日に再会を約束する。
しかし、待っても待っても幹夫は現れなかった…
悩み、落ち込む緑に、何とスパイクが話しかける。
「僕は幹夫のスパイクだ」。
もう、つかみは完璧といっていい。


というわけで、この作品への期待は大きかった。
大きかった、のだが、どうやら大きすぎたかも知れない。
何となく、僕の持っていたイメージと違うのだ。
何がって、スパイクの性格だ。
〝わたしのスパイクと同じでありながら、別の犬〟であるスパイクは、
〝人間っぽい性格、それもわたしより理屈っぽく、
 冷静で悲観的で現実的な−男っぽい性格をしていた。〟


これは、ちょっとなぁ…というのが、僕の感想。
何となく愛らしさがない。
犬は愛らしくあれ、ってのは、
「オンナは愛嬌」みたいな、差別的な思想かもしれないから、
多少はばかられるのだが、やっぱり犬は根っこからハッピーな存在でいて欲しい。
そんなことを思いながら読み切ると、
解説(僕のお気に入りでもある、本の雑誌吉田伸子)で、
そのモヤモヤが少しスッキリする。


問題は、犬種の設定だ。
もちろん、吉田伸子は〝ビーグルでなければ物語が成立しない〟
と、言い切っている。もちろん、この意見には賛成。
どうしても感情移入しきれなかった点とリンクするのだが、
この小説の理屈っぽさには、ビーグルでないとついていけない。
あの、どことなく気難しそうな風ぼう、哲学者めいた瞳。
あれでないと、この理屈っぽい物語の〝主役〟はこなせない。


で、問題はその理屈っぽさが、
僕にはちょっと説明くさすぎるような感じにならなかったのだ。
もちろん、ジャンル的にはSFミステリーでもあるので、
説明っぽさはある程度しかたがないのかもしれないが…
ただ、僕はラブラドール・レトリバーでのんきに謎解きとか、
コーギーでちょいとお間抜け路線とか、柴犬できりりといってみたり…
表紙絵でビーグルと分かっていながら、
そんな感じのイメージを先に抱いてしまっていたので、違和感を感じたのだ。
そう、だから、僕の責任。だから、作品の価値をどうこうするつもりはない。


ということで、過剰な期待をしていなければ、この小説は面白い。
傑作「雨恋」と比べると、やはりちょいと落ちるかな、とも感じるが、
それは個人差があるんじゃないか、と。
特に、最後のひねりは「ふむふむ」という感じ。
こういうこと書くだけでもネタバレになってしまうので、まずいかな…
すべての犬好きに贈る…、という感じとは思わないが、
犬が好きな人には、とりあえずお勧めしたい。


しかし、こうして書いていて思うこと。
ホント、ネコって物語にならないな…
だって、前向きに何かに取り組むとか、あの動物たちには…
いや、もしかしたらうちのネコさんたちだけなのかも知れないけど、ね。