梅田ブルク7で「ターミナル」

〝いい〟映画なのにね…



もう終映間近かと思っていたら、けっこう混んでる。
何だか納得いかなかったりもするが、ま、3連休ということで。


東欧の小国クラコウジアからアメリカを訪れたビクター・ナボルスキー。
しかし、フライト中に起こった政変のおかげで、入国は拒否される。
国籍も失ったナボルスキーは帰国もかなわず、
JFK空港の国際線乗り継ぎターミナルに足止めを食らう。
英語もしゃべれない、ドルも持ってない、空港の警備局長は意地悪で…の3拍子。
しかし、ナボルスキーは持ち前のバイタリティで空港の人々との交流を深めていく。


プロット聞いた時は、
〝えっ!? 「パリ空港の人々」の人々じゃん〟と思った。
ほとんど、そのままでしょ。事情は微妙に違うけど。
ジャン・ロシュフォール(「髪結いの亭主」)主演のあの映画も、
ペーソスあふれる、深い味わいあふれる作品だった。
このプロット、トム・ハンクスなら、どう演じるんだろう?
興味はそこにあった。不安はもちろん、監督。
スピルバーグにペーソスあふれるコメディが撮れるのか?
そんな不安を抱えながらも、まあ、楽しみな作品ではあった。


観ていて思ったのは、やはりトム・ハンクスのうまさだ。
序盤、ナボルスキーが状況に戸惑い、困惑するシーン。
シチュエーション・コメディとしては定番のシーンだが、
脚本が悪いのか、演出がヘタなのか、正直いって可哀想すぎて笑えない。
「きっついなぁ」という感じ。悪趣味ないじめドラマにも近しい。
でも、その切ない感じをうまく受け流すハンクスの表情が、
ぎりぎりの線でコメディ感を保つ。おお、すごいな、と思ってしまった。
まあ、こういうことを考えさせる時点で、作品としては問題があるんだろうけど。


中盤から、次第に事態を改善していくあたりは、こころを熱くする場面だ。
でも、細かいこというと、すべてが雑。
〝何でそんなに簡単に英語覚えられるの?〟とか、
〝考えてみれば、政変が起きたのに何で足止めはナボルスキーだけ?〟とか、
〝ターミナルの中で何でそんな簡単にお金稼げるの?〟とか…
まあ、そういうのをよそに置いておけば、けっこう泣ける。
だって、ハンクスうまいんだもん。周りもけっこういい役者出てるしね。


しかし、なのだ。そういう部分部分の〝泣かせ〟はけっこうイケてるのに、
やはりテンポというか、全体のつながりというか、
そこらへんの拙さで、あふれかけた涙は、こぼれる前に何となく引いていく。
〝あーあ、せっかくじーんときてたのに…〟。そう思うことはしばしば。


いろいろなドラマの要素の中途半端さもそれに輪をかける。
例えば、意地悪な警備局長補佐のスタンリー・トゥッチ(「ザ・コア」「ロード・トゥ・パーディション」)。
この意地悪加減の描き方が、とてもヘタだ。
徹底的な根性ワルに描くか、もしくは職責と人情の間で悩ませるか。
そこらへんをはっきりしてくれないから、
このキャラクターをどう扱っていいのか、どうにも判断できない。
人間の複雑さを描こうとするには、あまりに作品のトーン自体が単純だし、
ヘタにいい役者だから、たまに感情移入したくなっちゃって、裏切られる。


そして、キャサリン・ゼタ=ジョーンズとのロマンス。
これがまた、感情移入できそうでできない。
ゼタ=ジョーンズ演じるアメリアの価値観が、いまいち見えてこないし、
何でこの女性とナボルスキーが恋に落ちるのか、の描写が不足。
この後、ちょいネタバレなんだが↓


最後も何だか中途半端なままでお茶をにごすだけ。
えっ、これだったらもっとあっさりっとした描写にとどめた方が…。
結局、プロモーションだとか、俳優との契約とかの都合で露出を増やしたけど、
ヒューマンな要素との兼ね合いで、ロマンスに時間を取りすぎるわけにいかず…、みたいな。


と、いろいろ文句を書いてるけど、それというのも、
名作になりえる要素を持った作品だった、と確信してるからだ。
前述の通り部分部分の〝泣かせ〟はかなりこころに染み入る。
終盤、JFKのターミナルから足を踏み出すシーン。
ニューヨークでの〝約束〟を果たすシーン。
そして、国に帰るべく、ニューヨークの街並みを後にするシーン…。
ハンクスらの好演もあって、とても泣けるはず、なのだ。
もう少しきっちりストーリーを整理して、なにがしかの編集を加えてさえいれば。


スピルバーグって、もう大仕掛けでも往年のセンスはなくなったし
(「マイノリティ・レポート」も「A.I.」も製作だけやってりゃいいのに…)、
こうした小品(キャストはとてもそう呼べないが…)では、
ますますもって、そのセンスのなさが目立つ。
もう「シンドラーのリスト」のような、
ど真ん中真っすぐのヒューマンドラマ大作しかないのかな。


いや、何度も言うが、けっこういい映画だったのだ。
ヤな言い方だが、少なくとも料金分の内容はあるし、時間分は楽しめた。
それでも、「むむむ…」とうなりつつ、劇場を後にするしかなかった。
そう、感想は「泣き足りなかった」。
スピルバーグさん、ホント、何とかしてくださいな。