梅田ガーデンシネマで「バッドサンタ」

mike-cat2004-12-28



以前から楽しみな映画だった。
何といっても、あの名作「ゴーストワールド」の監督、テリー・ズワイゴフ作品。
オープニングだけでシビれさせられた、あの独特のセンスを、
また味わえるかと思うと、それだけでもう、楽しみでならないのに、
制作総指揮は、僕の大好きなジョエル&イーサンのコーエン兄弟
レディ・キラーズ」がちょっと…、だったことなんて関係ない。
その上、主演がビリー・ボブ・ソーントンだ。
酒好きでオンナ好き、ダルで口が悪くて、だらしない。
でも、どこか人間味を感じさせる、とくれば、かなり難しい役どころ。
コーエン兄弟が「がんばれ! ベアーズ」でのウォルター・マッソーをイメージして、
作り上げたキャラクターだっていうから、このクラスの名優を連れてこないとね♪


プロットだって、かなり魅力的だ。
極悪サンタってのも、向こうの一般的な意識としては、
けっこう衝撃的なんじゃないだろうか。
で、たぶん町山智浩氏のコラムだったか、で読んだけど、
あまりの内容のブラックさに、製作会社は製作を引き受けないし、
作っちゃったら、作っちゃったで、製作会社のお偉方が配給を嫌がったとか。
確かに、けっこうタブーの領域、犯してしまってる気するもんなぁ…
「F×ck Me Santa! F×ck Me Santa!F×ck Me Santa!」
とかやってるシーンとか、引くヒトは引くと思うし…
しかし、そのバッドテイストもズワイゴフ×コーエン兄弟×ビリー・ボブの手にかかると、
上質の(悪趣味は変わらんけどね…)ブラック・コメディとなる。
そして、そのバッドテイストがあるからこそ、
ハートウォーミングな成長物語が、リアルで、心に染み入るストーリーになるんだと思う。


極悪サンタを、本物だと思い、自宅にまで招いてしまうユルいいじめられっ子、キッド。
正直言って、かなり際どい。なかよし学級歩手前のユルさだ。
こんな感じで描いたら、障害者差別になっちゃうんじゃないか、と普通なら心配するところ。
だが、やっぱりコミカルな部分はコミカルにきちんと描き、笑い飛ばすことで、
障害者の存在そのものをヘンに特別扱いする、選別的な意識を取り除いている。
ユルいなら、ユルいなりのずるさもきちんと描くし、弱さもきちんと描く。
「障害者の心は清らか」みたいな、画一的な押しつけで、枠に当てはめない。
だからこそ、キッドの優しさ、本当の意味での賢さが、際立ってくる。


この子役のブレット・ケリーもいい。素晴らしい。
ホント、マンガのキャラクターをそのままCG合成したかのような雰囲気だ。
それでいて、イヤらしくない朴訥な演技が、ものすごく心に響く。
ビリー・ボブの、表情だけでも魅せる演技との相乗効果といったら、もうすごい。
安っぽい表現だが、笑えて泣ける、をまさに地でいってる、いい映画だ。


とはいえ、映画の最中はほとんど笑いっぱなしなのも、間違いない。
破天荒なビリー・ボブ=サンタの行動は、
ほとんどブラックな苦笑いとはいえ、とにかく笑える。
前述の差別ネタだって、ポリティカリー・ライトかどうか、みたいな言葉について、
差別用語に対する意識そのものを平気で笑い飛ばすようなギャグが出てくるし。


まあ、文句言うなら、もう少しバーニー・マックを活かせばいいのにな、というのが1点かな。
いまいち、彼らしい面白みが十分出ていなかったような気がする。
かといって、あんまり場面が多いと、映画そのものの雰囲気変わっちゃうから、
もっともっと出演場面をしぼって、印象的に使えばいいのにな、なんて。


でも、総合的に見れば、期待通りの佳作。
もちろん「ゴースト・ワールド」には及ばないけど、満足感はかなり高い。
少なくとも、遠い、遠い、梅田スカイビルまで出向いた甲斐があった。
(↑大阪在住の方はご存じかとは思うけど、辺鄙な場所にあるんですわ、これが…)
たぶん、ことしの映画締めになると思うが、
この映画にしてよかった、と胸をなで下ろし、劇場を後にした。


そうそう、最後に「In memory of John Ritter」のクレジット。
治まりかけていた涙が、またあふれてしまった。
最近はあまり見かけなかったけど、
「プロブレム・チャイルド」とか「カウチポテト・アドベンチャー」とかで、
アメリカの、いかにも
〝ふだんはちょっとイケてないけど、ホントは人間のスケールが大きいパパ〟
を演じたら、すごく伝わってくる演技ができる俳優だったと思う。
宗教上、合掌というわけにはいかないが、哀悼の意を示したい。