シネリーブル池袋で「オールド・ボーイ」

武器はトンカチです



ことしのカンヌのグランプリ作品。
ちなみにパルム・ドールは「華氏9/11」だったりする。
「アクション」とか読まないので、知らなかったのだが、原作は日本のマンガだとか。
発想勝負のストーリーだから、韓国映画のパワーに感心する前に、
日本マンガの偉大さをあらためて実感してしまう。


ソウル五輪の時代の韓国。
酔って派出所に拘留されたオ・デスは、その帰途で突如、何者かに拉致される。
連れて行かれたのはさびれたビルの一室。
理由も何も説明されないまま、15年間の監禁生活が始まった。


不条理ドラマとしての舞台装置はかなりおもしろいと思う。
監禁生活といっても、明確な虐待はない。
食事は与えられるし、テレビも与えられる。
そして、ある日のテレビに映し出される自分の顔写真。
「妻を殺し、失踪した殺人犯、オ・デス」だ。


こんな状況で、何を考え、何をするのか。
まずは自問自答だろう。「おれが何をしたんだ? どうしてこんなことを…」。
過去を振り返り、恨みを買った人物を思い当たる。
しかし、これだけのことをされる覚えはない。
理解不能な状況に、次第に絶望感が募り始める。
この段階までは、誰もが同じ状況なんじゃなかろうか。


ここから、どうするかでドラマは大きく変わる。
文学的な小説とかなら、ここでさらに妄想の世界に走るトコだし、
僕もこの映画に、そこらヘンを期待して見たんだが、ここからが違った。
オ・デスの場合は、復讐の鬼と化すのである。すごい気力。
レーニングなんか始めちゃったりする。
こういうとこは、〝いつか出られるはず〟の刑務所で、
体鍛えちゃったりするのと同じ思考回路なんだろうか。
しかし、出られるアテもないのに、ポジティブな方向で行動できる人間はそういないと思うが…
まあ、自殺もさせてもらえないんじゃ、こうせざるを得ないのかもしれない。


映画は、ある日突然解放され、監禁の謎を解くべく、オ・デスが奔走する部分がメインになる。
ちょっと意外。というか、知らなかっただけだけなんだが、
僕的には、監禁された人間の行動、思考だけでできた映画だと思ってたもんで。
ここらへんからは、もう半分アクション映画。
悪党との立ち回りシーンなんか、正直ちょっと安っぽい印象すらある。
解き明かされる謎も、ここには書かないが「あら、まあ」という感じ。
いや、なかなかうまくできてるな、とは思うんだけど。


ただ、そうしたやや安直な部分を大きくカバーするのが、主演チェ・ミンシクの泣き笑いの表情。哀切のラストでも見せる、含みのある複雑な表情が、
この映画を発想倒れの駄作から救い、一見の価値のあるサスペンスに昇華させている。


ついでにいえば、ちょっと沢口靖子似の新人女優カン・ヘジョンもいい。
解放されたオ・デスに近づく謎の女性寿司職人。ちょっと微妙か…
最初の登場場面のメイクは見られたモンじゃないが、
その後スッピンっぽく登場すると、思わずキュンとなる魅力をふりまく。
女優のチョイスもこの映画に大きなプラスアルファを与えてるかな。


結論。
前述の通り、〝監禁〟に対するオ・デスの思考の掘り下げが甘い点で、
手放しで絶賛するわけにはいかないけど、印象的な映画だったとは思う。
ちょっと多忙で、ひさびざの映画になったけど、悪くないチョイスだったな、と自画自賛
いや、トムクルの「コラテラル」あんまりにも悪評ぷんぷんだったもんで…