渋谷シアターイメージフォーラムで「靴に恋して」

ほら、ポスターは素敵



だまされた…
一面に靴が並んだ、おっしゃれなポスター。キャッチコピーも
シャルル・ジョルダン、グッチ、シャネルなど最高級の超ゴージャスな靴が300足登場!
全世界の女性たちの心を深く揺り動かした、愛の賛歌」。
ウソばっか。ことし有数のトホホ映画だったかも。
終わった瞬間、思わずもらしたひと言。「ああ、そう…」。


靴にまつわる5人の女性の群像劇だ。
盗んだ靴をはく女、レイレは、盗んだ靴で夜な夜なクラブで踊る靴店員。
扁平足の女、アデラは、知的障害者の娘を持つ娼館のマダム。
スリッパをはく女、マリカルメンは、未亡人タクシードライバー。レイレの義理の母。
スニーカーをはく女、アニータは、看護学ホアキンに恋する25歳。アデラの娘。
小さな靴をはく女、イサベルは欲求不満の高級官僚妻。趣味は靴のコレクション。
5人の生活が、さまざまな場面で交錯する時、人生は大きな転機を迎える。


いや、さりげないけど、何となく引き込まれるカメラアングルとか、
会話の端々に見え隠れするセンスとか、決して悪くない、とは思う。
何らかのメタファーになってるんだろうな、というのも映像の端々から伝わってくる。
何がいいたいか、というのもおぼろげには伝わってくる。
「孤独は人を身勝手にする。心の持ち方ひとつで幸せになれるのに…」みたいな。
だが、その結論に至るまでの過程が、どうにも納得のいかないのだ。


登場人物は、みんなが孤独に苦しんでいる。
レイレは突然、恋人に去られてしまう。
マリカルメンは、苦労して養っている連れ子たちに理解されない。
イサベルは、理解のない夫に苦しめられている…
だけどこの人たち、あんまり同情できないのだ。
理由は簡単。この人たちったら、とにかく超身勝手なのだ。
見ている限り、この人たちが不幸になる経緯はけっこうわかりやすい。


不幸の方程式みたいなのがあったら、的確に不幸への道を選択していくのだ。
だから、周囲から辛く当たられても、けっこう理解できるんだが、
当事者はとにかく「わたしが被害者なのよ!!」。
で、世界一の不幸はわたしなのよ、と強く主張してみたりする。
そして、「何でわたし〝だけ〟がこんな辛い目に…」と、負の連鎖に陥っていく。
だけ、が特にポイントね。


人生のつらさを、シビアに描いた、という好意的な見方もできるのだろうけど、
その事実関係だけを描いていくだけでは、不十分なはずだ。
その不幸に対する対処、というか怒りや不満をどう描いていくかに、
映画としての見せ場はあるはずだ。
だが、この登場人物たちのフラストレーションはひたすら、周囲に向かっていくのだ。
動物とかに平気で向かっていく。一番許せないのそこなんだが。
それは現実にあり得ることだが、何も映画で表現しなくたっていい。
そこに、内面に対する葛藤とか、そういう描写は一切ない。
だから、見ていて何か、その痛さが辛い、というより、むしろいら立たしい。


もちろん、そんな人たちが、幸せになっていく話なら、それもいい。
望むところだ。頑張れ、泣いちゃうぞ! って感じなんだが、そうは問屋が卸さない。
きゃっ、かびが生えたような古くさい表現だわ。
この幸せになる過程に、ぜーんぜん説得力がないのだ。


この映画、135分の長尺なんだが、不幸描写が128分ぐらい(たぶん…)。
不幸の大風呂敷を、広げるだけ広げる。もう収拾つかなくなってくるくらいだ。
しかし、最後の10分足らずで、一気に幸せへの階段を駆け上がる。
で、けっこう長々と意味ありげに描写されていたサブキャラたちが、
いきなりぞんざいに不幸になったり、幸せになったりしている。


「それでいいわけ?」。突っ込まずにはいられない。
登場人物を、そしてこの映画自体を愛して作っているとは思えないのだ。
とりあえず、プロット通りに撮ってみた。みたいな。
あとは好きな映像とかカメラアングルだのを入れて、もう満足。
「オレってアート派の監督だからさ、ムダな説明はしないわけよ」
という、傲慢な思い上がりも伝わってくる。
その割に、ゲイの男がぜんぶいいトコ取りしてくトコとか、もう使い古されたやり口だし。
靴や足に対するフェチ的な描写も、けっこうありふれてるし。


チラシとかに、試写会アンケートが載ってる。
だいたい、やたらとタダで映画観たがる人間のレビューほど、
信用できないものもないけど、これがまた、本当にひどい。
納得がいくのは、「ファッションがかわいい、おしゃれ」(26歳)とか、
「出てくる男性が美形だよ」(30歳)ぐらい。
「恋に迷ってる人に勧めたい」(30歳)とか、
「感動するよ」(23歳)「共感できるよ」(29歳)とか、なんなんだよ、って感じ。
人の考え方はそれぞれだし、感想に文句つけるのもなんだけど、
本当にちゃんと観たわけ? どこが? と真剣に話し合いたくなる。


「今年ナンバー1!!」(27歳)なんか、お前ことし何本観たんだ? と訊きたくなる。
「人生について考えさせられる」(25歳)。確かに僕も考えさせられました。
教訓を得ましたよ、僕も。この映画から…
この登場人物たちのようなひとには、一切関わらない方がいい。
いや、映画って本当にタメになりますね。よかった。
こういう風に、プラス思考を持ちましょうってことも教わったかな。
重ねがさねよかった。←ホントに?