〝大道珠貴〟を存分に味わう

どの短編もいけます♪

大道珠貴「ミルク」を読む。オビには
「とりとめもない日々、なんでもないセックス
もう少女じゃいられない七つの物語」

ミルク

ミルク

芥川賞受賞作「しょっぱいドライブ」や、
個人的な大道珠貴フェイバリット「銀の皿に金の林檎を」に通じる、
何となくな〝投げやり感〟が貫かれた、いかにも大道珠貴な作品だ。
〝投げやり〟って貫くもんじゃないけどね…
しょっぱいドライブ 銀の皿に金の林檎を


中学生から高校生に移りゆく女のコたちの、
とりとめのない日常を綴った表題作「ミルク」が気になった。
秋菜、波子、小麦、真純のなかよし4人組。でも、なかよしっていったって、微妙な4人。
きっちり、4人のうちのランク付けは決まってる。
いや、どの人間関係でも、多少なりともそういう傾向はあるけど、
この〝きっちり〟というところがミソだ。


さえない社会人からナンパされたのが、最下位の真純だったことが、
4人の間にちょっとしたさざ波を呼び起こす。
秋菜が選ばれなかったことは、衝撃ではない。
「びびっちゃうから、だいたい男って、グループの3番目くらいを選ぶ」はずなのだ。
そんなもんかな、とも思うけど、そこまでのランクへのこだわりが、強烈だ。
もちろん、このランク付けが、男にも共通なのかどうか、という問題もある。
オンナ同志でのランクって、意外と男から見て、とは一致しないし。
あくまで、人間的な交流抜きで、ね。
そういう軽い関係に限定して、だけど。あ、それは余談。


そうそう、ランク付けへのこだわりだ。
動物って本来、強い、弱いをさっと見て取る本能がある。
それを考えると、偏差値偏重社会っていうのも、イヤな意味で自然なのかな、とも思う。
ただ、そういう弱肉強食ならまだしも、
〝下〟に弱い者がいる、という安心感でしか、自分の価値を見いだせない、
イヤらしいランク付けに汲々としているのを見ると、ホント悲しいとしか言いようがない。


幸い、この短編はその後、違う方向に進んでいってくれるので安心なんだが、
こんどは、最初にも述べた〝投げやり〟が気になってしょうがない。
わたしなんかさ、別にさ、という諦念。
30にもなれば、多少そういうのもないとやっていけないが、
これを10代半ばで感じてしまうことのつらさ。
でも、まあいーや、みたいなのが伝わってくると、つくづく色々難しいな、と痛感する。


ほかの短編も印象深いのばかりだが、もう一コ。
投げやり美人女子高生を描いた「ラ・フランス」だ。
気が弱いわけじゃないのに、とにかく、イヤというひと言がいえない。
めんどくさいので、流されてしまうキリ。すごい名前だな。
どうでもいい男に引きずられ、その割に報われない。


そんなキリだから、つきあい始めた男もあっという間に堕落する。
最初「俺なんかと付き合ってくれないよね」といっていたケイゴが、
気付くといっぱしの口をきくようになっている。
「オレなんかより、いいやつ探せよ」。
普段はそんな状況を笑ってみせてるキリが、突然深い悲しみにとらわれる。


そんな時でも「泣くのには慣れてないので、鼻水しかでない」。
キリの感情に、すごくリアルな印象を受ける。
いまを忘れるために眠りたくなるし、体の具合が悪くなりたくなる。
それを過ぎれば、またもっと元気になることも知ってる。
だから、自分をかわいそうだと思い、しくしく泣こうとする。
でも、涙は出ないから、鼻水をかみ続けるのだ。


哀しみを乗り越える手順を、知りすぎているのも何だか切ないし、
うまく泣けなくて、鼻水で代用しちゃうところも切ない。
でも、一方で、最後のところで自分をうまくいたわっているな、
と感じさせるところには、安心感も覚える。
あくまで、物語の登場人物ではあるのだが、愛おしいな、と感じさせる。
切なかったけど、読んで元気になる小説だったな、と。
うん、そういう意味でも、いかにも〝大道珠貴な〟小説だった。大満足。