求め続けた「幻の女」の姿は?

けっこう疲れました

2日ぶりのご本は、香納諒一「幻の女」。ISBN:4041911044
文庫で700ページ。
ぶ厚いハードカバーはあきらめがつく、というか、
なんかチャレンジャー・スピリットをかき立てられるんだが、
文庫は2分冊にして欲しいところだ。持ちにくいし、読みにくいから。


5年前、何の前触れもなく、跡形もなく姿を消した女、小林遼子。
その後、家庭は崩壊し、妻と子を失った弁護士の私、栖本。
だが、ある日二人は、思いがけない再会を果たす。
しかし、5年間問いかけ続けた「なぜ?」の答えを得られないまま、
遼子は再び、私の目の前から姿を消した。
「幻の女」の軌跡を追って、私の錯綜が始まる。


こうやって書いてると、ファム・ファタールものっぽい。
いや、ブライアン・デ・パルマのとほほ快作(お好きな人にはたまらない)
ファム・ファタール」とはもちろん、似ても似つかない。
ファム・ファタール [DVD]
かといって、ロマンスよりの作品でもない。
むしろ、硬派なミステリーっぽいノリだったなという印象が強い。
1998年の「このミステリーがすごい」6位だそうだ。
どうなんだろ。とここまで書いたらわかるだろうが、
あまり面白いと思わなかったのだ。


もちろん、期待する方向性が違った、というのが最大の原因だとは思う。
京風の和食料理を食べに行ったら、
にゃごや風のベタベタな濃い味の料理が出てきた、という感じの。
いかん、いかん。この前の名古屋の記憶がこんなことを…
この本の場合、僕はもっとロマンス寄りの小説を期待してたのだ。
忘れえぬあの人の面影を求め、もうメロメロみたいな。
だが、わたし栖本は、彼女の真の姿を追い求めるべく、力強く行動する。
でも、強く行動しすぎだ。
恋が人間を強くする面はもちろん、否定しない。
でも逆に、恋する人間の弱さみたいなものも、見えてこないと、
その強さもあまり信ぴょう性を感じられないのだ。
だから、硬派に謎解きに驀進する栖本の姿に、
謎解きのための謎解き、みたいな部分が感じられ、乗っていけなかった。
構成の複雑さについていけなかっただけかも知れない。
いや、ホント勝手な期待でこんなこき下ろして申し訳ないが。


もちろん、印象的なシーンはあった。
ストーリーが進に連れ、判明してくるのだが、実はこの二人、
ある似たような境遇の中で過ごし、同じようなバックボーンを持っていた。
それを知った栖本が、ある夢の中で再び遼子に問いかける。「どうして?」
遼子が答える。
「あなたは別に私を求めているわけじゃない。
あなたはただ、自分の人生が見つけられないだけなのよ」。
立ち直れないほど、打ちのめされる台詞だろう。
ある意味、強烈な人格否定だ。
その人に想い焦がれ、求め続けた相手に、自分の存在意義である、その恋を否定されるのだ。
これを自分の夢の中でやってりゃ、ホント世話がない。マゾだろか。


もちろん、恋愛にはこういう場面もあるだろう。
「なんで、あなたは私を求めるの?」。
こう聞かれても、「好きだから」以上でも以下でもない、
理屈じゃない部分は説明がしようがない。
じゃあ、説明できる部分だけを取り上げると、例えば「寂しかった」
とか利己的な感情がクローズアップされがちだ。
これが悪く取られると、上のような会話にも発展しかねない。
いや、ホント恐ろしいな、と思う。
小説の中ではこれ、夢だから、思うような会話もできないだろうし。


もちろん、栖本が追い掛け続けた答えは小説の最後で明かされる。
求め続けた、真実の遼子の姿、そして遼子の求めていたもの。
その回答をまた、読者としてどう受け入れるか、でも、
この小説の好き嫌いは分かれるはずだ。
僕はどうだったか。ここまで書いている内容で明白だろう。
ううん、ちょっと受け入れがたかった。
僕にとっては、切なさも足りない、カタルシスも足りない。
悪い内容ではないと思うんだが、僕にとっては心に響く結末ではなかった。
僕だったら「幻の女」をどう追い求めるか。まだわからないが、
たぶん、この栖本とは違うだろうな、という確信は持った。