吉野朔実発、犬と読書の楽しいコラム
待ってました。
吉野朔実「犬は本よりも電信柱が好き―吉野朔実劇場」。ISBN:4860110374
22日取り次ぎ搬入、となっていたので、きょう発売のはず、と思い、
新宿は紀伊国屋書店本店に向かうが、本の雑誌出版物コーナーにない。
おかしいな、と思い、店員さんにお尋ねする。
「犬は本より電信柱が好き、って本はないですか?」。けっこう恥ずかしい。
以前、このシリーズの既刊「お父さんは時代劇(チャンバラ)が大好き」
で取り上げてた、「書店で尋ねにくいタイトル」に近しい雰囲気。ミイラ取りがミイラに、だ。
冷静に考えると、この格言もかなりすごいけど。
そうそう、結局ほかのフロアにあったんで、そちらに移動して購入。
ふだんは電車で漫画雑誌読んでる大人を軽蔑してるクセに、
いてもたってもいられず、読み始めちゃう。
いいじゃない、許してよ。その心を他人に向けろ、と一人で突っ込み、心の葛藤に区切りをつける。
本の雑誌連載中の、本にまつわる漫画コラム。
もう一つの既刊は「お母さんは〝赤毛のアン〟が大好き」
今回はウェルシュ・コーギーの「こおり」ちゃんが登場する。
といったって、本は読まない、当然だけど。
本との関わりは、読書の邪魔と、噛んでダメにするだけ。ネコより、たちが悪いな(笑)
しかし、強烈にキュートだ。
本のアタマに、こおりちゃんのバックショットのイラストがある。
頭がくらくらする。かわいすぎ。
この作家さん、どうぶつの〝かわいい角度〟知り抜いてる。
わんこネタでは、問答無用に本を破壊する「こおり」ちゃんのエピソードがほほ笑ましい。
そんなもんです、どうぶつは…。
ネコ飼いとしては、同じ微妙な悩みを持つ同志、という感じもある。
ちなみにうちのネコは、体調も悪くないのに、ドライフードが胃で膨張してゲロを吐く。
時に僕の体の上、時に食卓、時にベッド…。もちろん本の上だって容赦ない。
この本で取り上げられた、噛み跡のある本と、ネコゲロでごわごわになった本。
どっちもイヤかも。本読みの悪夢、という気がする。
ま、どうぶつ飼った時点で、きれいに何かを保存する、とか無理だからな。
あきらめるしかないんだろう。悔やみきれない時あるけど…
取り上げられている中で、気になった本は、北村薫編のアンソロジー「謎のギャラリー−謎の部屋−」に収録されているジョヴァンニ・パピーニ著の「返済されなかった一日」。
23歳の誕生日の直前に紳士が現れ、「あなたの一年間を私に下さい。必ず返済します」。
その一年分の人生を将来、細切れに返済してくれる、という奇想文学だ。
うらやましい、と歓喜するか、そんなのイヤだ、と恐ろしがるか。
僕なら、一年貸しておくかな、と思ってしまうが、著者は「恐ろしい」派だ。
「若い時代に戻ってる時はいいけど、次の日起きたら、50、70。
いかに衰えているかを思い知らされるのを365回もやったら、耐えられない」。
そうか、そういう考え方もあるのか、とけっこう不思議。
僕なんかだったら、衰えていることに気付くぐらい、別に構わないかな、と。
それより、頭の回転では若い頃に及ばないまでも、
記憶や経験、そしていまの図々しさであの若い時代(いや、いまも若いつもりだけど…)
を生きてみるのも一興だ。ついでに、たいしたことないけどいまの経済力もよろしく。だめ?
やっぱり、50、60になった時、たった一日でも昔の体に戻って、
思う存分、若い体でしか楽しめない「何か」をもう一度、楽しんでみたいと思うはずだ。
いや、「ナニ」じゃないですよ。たぶん、それも含まれると思うけど、あくまで色々な「何か」。
コラムの中では「老いた自分に再び戻ることが、なぜ怖いのか」の理由を語り合う。
いまの自分が幸せだから、戻るのが怖くないのか、それとも、戻る必要がないのか。
ううん、深い。色々な考え方があるもんだ。
でも、僕はやはり「一年貸しとく」派。
18か19の一年がいいかな。ほんと、妄想は尽きない。