「生活する東京」をスケッチする「珈琲時光」

一青窈。いい女優になりそう

新宿テアトルタイムズスクエアで「珈琲時光」。
もとアイマックスシアターだけあって、相変わらず画面でかい。
この大画面で、こういうおとなしい映画観るのもなかなか乙なものだ。
映画は、小津安二郎の生誕100周年記念作品だそうだ。「21世紀の東京物語」。
東京物語」観てないよ、と思いながらも、
予告で観た一青窈(ひとと・よう)の雰囲気に惹かれ、観に行った。
「もらい泣き」という歌がヒットした歌手だそうだ。知らなかったけど。


で、映画はタイトルにも書いたが、「生活都市」としての東京のスケッチ。
山手線、中央線、都電荒川線など、電車の風景を中心に、
静かな視線で東京のいまを描き出す。
もちろん、東京のすべてでもないし、象徴的な東京でもない。
非情城市」で知られる侯孝賢監督の視点。つまり、台湾の人による、スケッチだ。
ここらへんだけでも、なかなかすごいな、と思う。


しかし、小津のファンという監督だけあって、
よく知られる(観てないけど、こういう映画とはよく聞く)、
小津らしさ、っぽい雰囲気(ヘンな日本語だな)は、ひしひしと伝わってくる。
観てないクセに、といわれるかもしれないが、そんな気がしたのだ。


それはたぶん、BGMを極力抑え、不快なものも含め、
さまざまな生活音を意識的にきっちり拾った成果のような気もするし、
神田、お茶の水、有楽町、鬼子母神周辺など、
昔ながらの面影を残した街並を舞台にしたおかげもあるだろう。
何となく懐かしい。でも、間違いなくいまを切り出した、心地よいスケッチだ。
東京にほれ込んだ監督の気持ちが、うまく表現されていると思う。


ストーリーは、あまりはっきりしない。
主人公は、台湾出身の音楽家、江文也の足跡をたどるフリーライターの陽子。
描かれるのは、古本屋を営む肇(浅野忠信)との交流や、高崎に住む両親との微妙な会話。
ストーリーの軸となるのは、陽子の妊娠だが、メインテーマとは違う。
あくまでテーマは、東京に住む、陽子の日常。
一青窈の持つ、表情、声など独特の雰囲気が、深い味わいを醸し出す。
そして、小説でいえば、行間に当たるような、わざと描写しない部分で、
観ているものの感情を、うまく引き出す演出が、不思議な奥行きを作り上げる。
終わった後の余韻は、最近感じたことのない、さわやかな感触だった。


そうそう、陽子の着ている服が、どれもいい感じだった。
いいシルエットのブラウスだな、とか、あのシャツもいい感じだな、とか。
さりげない感じだが、すごくいいな、なんて思いながら観ていたんだが、
ワードローブ協力、のトコ見て納得した。マーガレット・ハウエル。
こんなトコにも、この監督のセンスが出ているんだろうな、とあらためて感心させられた。