モートンの瞳にはまる「CODE46」

とにかく、きれいな映画です

本日の早起きシネマは、銀座テアトルシネマで「CODE46」。
地表のほとんどが砂漠化した近未来。
都市への居住や、都市間の移動ができるのは、許可証を持つ一部の人間のみ。
その許可書の偽造の捜査のため、上海に降り立ったウィリアム(ティム・ロビンス)は、
偽造事件の容疑者マリア(サマンサ・モートン)と出会う。
惹かれ合う二人だが、取り巻く状況は次第に困難なものになっていく。


ここ最近の公開作では、もっとも期待値の高かった作品だった。
何しろ「ショーシャンクの空に」「未来は今」のティム・ロビンス
ショーシャンクの空に [DVD] 未来は今 [DVD]
イン・アメリカ」「ギター弾きの恋」のサマンサ・モートンだ。
イン・アメリカ/三つの小さな願いごと [DVD] ギター弾きの恋 [DVD] 24アワー・パーティ・ピープル [DVD]
そのうえ、監督は「24アワー・パーティ・ピープル」のマイケル・ウィンターボトム
ウィンターボトムは「ひかりのまち」「ウェルカム・トゥ・サラエボ」を挙げるべきだが、
めぐり合わせが悪く、観てないんで「24アワー〜」。しかしこれも◎だ。
もう、楽しみでならなかった。


じゃあ、その期待値の高さに応えたのか。
結論からいくと、ストーリーに留保つけつつ、雰囲気と俳優にしびれた、という感じ。
映画は、砂漠の俯瞰映像から始まる。
砂漠の映像に弱いもので、あっという間に映画の世界に引き込まれた。
アラビアのロレンス」も「イングリッシュ・ペイシェント」も、
あの砂漠の映像だけでしびれたクチとしては、もうつかみはOKだ。
そして、硬質な雰囲気を漂わせる〝未来の〟上海や、ドバイの映像。
遺伝子操作やクローン技術に支配され、ID認証で徹底管理される未来社会の、
薄ら寒い雰囲気は、ブルーを基調とした色づかいの中で、効果的に描かれる。
ストーリー全般を貫く、切ないムードを引き立たせていて、すんごくいい。
さすがウィンターボトムという感じだ。


ティム・ロビンスの抑えた演技も、相変わらずいい。
まあ、妻への愛をうたいつつ、マリアにフラフラするあたりは、どうにも納得いかないが。
そこらへんの問題をどっかにやってしまうと、
映画の雰囲気に溶け込んでいて、ドラマの切なさがますます際立つ。


だが、この映画の魅力は、その演出意図の方向性が、
サマンサ・モートンにすべて集約されている点なんじゃないか、と思う。
砂漠に囲まれた未来社会の絶望感、不条理な管理社会、切ない愛、そして希望。
そんな要素が、マリア=モートンの青い瞳の中で、うるうると光を放つ。
個人的な趣味なのかもしれないが、この女優、決して美形とはいえない。
だが、その瞳の力はとてつもない。
「ヴィレッジ」でもブライス・ダラス・ハワードにそんなこと言ってた記憶はあるが、
それはそれ、これはこれ、ということで。


意思の強さとあやうさ、真っすぐさとゆらめき、そんな矛盾した魅力が、
その瞳の中には潜んでいる。アップの画面とか、思わず溶けてしまいそうになる。
ストーリーが持つ、感情的な要素が、この瞳が映し出されることで、
不完全な筋立てを乗り越えて、この映画は輝きを見せてくれるんだと思う。


終わってみて、ストーリーに「えっ、それは…」という部分はありつつも、
心に強く残っているのは、モートンの瞳の青さ。
傑作、という言葉を使うのは憚られるが、とても気になる映画だった、と思う。
ガタカ」級、との期待には応えられなかったが、いい時間を過ごすことができた。