ううん、人生「停電の夜に」

本は、ピューリッツァー賞受賞などで話題になった、
ジュンパ・ラヒリの短編集「停電の夜に」をようやく読む。
停電の夜に (新潮文庫)
4年前の刊行当時は、短編が嫌いで(いまも得意とはいえないが…)、
いつも平積みを眺めては「ううん、でも短編だから…」と、避け続けていた。
だが、2作目の長編「その名にちなんで」がまたも話題になって、
せっかくだから、それを読む前に、と、いうことで、遅ればせながら、だった。


やはり、印象に残ったのは、タイトル作「停電の夜に」だった。
死産をきっかけに、関係がぎくしゃくし出した夫婦が、
停電の夜に、お互いの秘密を告白する。
何を告白するか、何を告白しないか、何を告白されるのか、何を隠されるのか…
微妙な緊張と興奮が、二人の関係に、変化をもたらしていく描写が秀逸だ。
様々な想いを抱えた夫婦が迎えた結末の、その苦さも含めて、
ううん、人生だな、などと思ってしまう、不思議な作品だった。


あとは「三度目で最後の大陸」。
カルカッタに生まれたベンガル系インド人が、
ヨーロッパ留学を終え、アメリカに移住する。
アメリカで最初に住んだ、ボストンの下宿での、大家の老婆との交流を描く。
老婆との交流は、新世界での驚きを象徴するような、不思議なものだった。
最後、主人公は自分のたどった足跡を、こう振り返る。


「なるほど結果からいえば私は普通のことをしたまでだ。
国を出て将来を求めたのはわたしだけではないし、もちろんわたしが最初ではない。
それでも、これだけの距離を旅して……
その一歩ずつの行程に自分でも首をひねりたくなることがある。
どれだけ普通に見えようと、私自身の想像を絶すると思うことがある」


ギリシャ系移民で、両性具有の主人公の半生を描いた、
ジェフリー・ユージェニデスミドルセックス」もそうだった。
ミドルセックス
(これもピューリッツァー賞だったような…)
ある意味「ゴッドファーザー」3部作だってそうだ。
郷里を離れ、言葉も文化もまったく違う世界で生きていくことは、
本当に想像を絶する出来事なのだな、と感慨を覚える。
こういう強烈な体験、何とかしてみたいとおも思うが、
やっぱり旅行や出張ぐらいじゃだめだな…