渋谷・ユーロスペースで「ファーストフード・ネイション」

mike-cat2008-02-16



ファーストフード業界の裏側を暴くとともに、
グローバリゼーションがもたらした弊害を告発し、
世界に衝撃を与えた、エリック・シュローサーの原作ノンフィクション、
ファストフードが世界を食いつくす」を、
「スクール・オブ・ロック」「ビフォア・サンセット」のリチャード・リンクレーターが映画化。
シュローサーとリンクレーターによる脚本で、
ドラマ化された作品に出演するのは、「リトル・ミス・サンシャイン」グレッグ・キニアに、
「トレーニング・デイ」イーサン・ホーク「ロスト・ハイウェイ」パトリシア・アークエットら。


業界中堅のハンバ−ガー・チェーン「ミッキーズ」で、
マーケティング担当重役を務めるドン=キニアはある日、
バーガーのパティに糞便性大腸菌が混入したとの情報を受け、
社長の命を受け、さっそく内部調査に取りかかる。
コロラドの工場に向かったドンは、その恐ろしい実態を知ることになる。
一方、メキシコから不法入国したシルヴィアたちは、
ブローカーたちによって、食肉工場へ派遣された。
そこは、メキシコ人を過酷な労働条件で使い捨てる、格差社会の最底辺だった…


本を読んだときの衝撃もそれはそれはすさまじかったが、
こうしてストーリー仕立てにされ、モラルの欠片もない食肉工場の経営者や、
“大量消費”される不法入国者に、本物の表情がつけ加えられると、
その異常性がますます際立って、観る者の胸を締めつける。
さすがに糞便が混ざる衝撃シーンは、訴訟対策のためか明解には示されない。
だが、やはりそこかしこで明かされる“業界の実態”は、やはり恐ろしいのひと言だ。


ちょうど中国の殺虫剤餃子が問題となっている折、
なかなかタイムリーな公開かとも思うが、アメリカでこれなのだから、
中国の食品業界の裏側なんか覗いたら、
本当に食べ物を受け付けられなくなりそうな感じがしてならない。


そんな衝撃の告発の内容だけでなく、
映画のストーリーとしても、なかなか悪くない出来に仕上がっている。
ブルース・ウィリスにアヴィリル・ラヴィーン、カタリーナ・サンディノ・モレノ
ポール・ダノ、ルイス・グスマン、アシュレイ・ジョンソンなどなど、
なかなか豪華な布陣をそろえつつも、
よくある映画全体のトーンを崩してしまうような配役はなし。
それなりに必然性を感じさせるキャストで、ドラマに厚みを加える。


ただ、気になったのはラスト。
不法入国したヒロインのルヴィアが、
どんどん悲惨な境遇に追い込まれるクライマックスなのだが、
その場面にいわゆる屠蓄シーンが使用されている点である。
確かに、普段目にすることはない場面は、“衝撃的”かもしれないが、
よく考えなくても、これはお肉を食べる以上、日常的に行われていることだ。
これをもって、最悪のクライマックス、としてしまうのには違和感を覚える。


もちろん、本当の衝撃は、業界の裏側を目の当たりにしたはずの、
「ミッキーズ」の重役ドンの最後の選択なのかも知れないが、
屠蓄シーンをクライマックス的に使うことで、
告発の焦点が見当違いの方向に行った感は否めないだろう。
不法入国者たちが使い捨てられることへの憤りなら、
もう少し違う表現でも、十分に伝えられたはずと思うだけに、残念でならない。