東野圭吾「夜明けの街で」

mike-cat2007-07-06



〝この恋はどこまで続くのだろうか。〟
不倫する奴なんて馬鹿だ。
そう信じていた〝僕〟が、道ならぬ恋に堕ちた。
男と女ではなくなった、妻との関係を忘れ、
甘い甘い恋に溺れる〝僕〟。
だが、彼女には口には出せない秘密が―
東野圭吾の新境地にして最高傑作〟
野生時代」連載をまとめた、衝撃の恋愛サスペンス。


40を目前に控えた〝僕〟。もはや男ではない、ただのおやじ。
素敵な女性に目移りはする。でも、不倫なんて考えてもいなかった。
だが、〝僕〟は恋に堕ちた。
秋葉は、ごめんを言うのが苦手な、でも、かわいい女。
気づいたときには、気持ちはもう後戻りできなかった。
でも、彼女には秘密があった。
それは、決して口に出せない秘密。〝その日〟が来るまでは―


数々の傑作を生み出してきた東野圭吾にとって、
これが最高傑作か、と言われると、まあそこらへんは微妙だろう。
しかし、間違いなく、そして文句なく、この作品は素晴らしい。
そして、「新境地」という言葉は、なかなか言い得て妙である。
何しろ、作品の序盤は、まるでTVドラマを見ているかのような、
甘い甘い、そして作為的なまでにユルい、不倫ストーリーなのである。


不倫をハナから否定していた〝僕〟には、
よくできた(この概念、あまり好きではないが…)妻と、かわいい娘がいた。
しかし、ふとしたきっかけで、〝僕〟は恋に堕ちる。
友人の新谷の忠告にも耳を傾けず、深い深い恋の沼にはまる。
「だって、恋してるんだもの!」。
そんな叫びが聞こえてきそうな、そんな甘い不倫の恋は、
読む者まで恥ずかしくなるような、ベタベタな定番コースを驀進する。


だが、ふたりの間に突如忍び寄る、秋葉の秘密。
ますます過熱するロマンスに、不審な影をもたらすミステリー。
読んでいるだけで落ち着かなくなるような、黒い不安が、
〝僕〟のこころの中で、次第に色濃くなっていく。
そして、序盤で恥ずかしい想いをした甘さですら、
実はそんなミステリーの伏線になっていることに気づく。
さすが東野圭吾、と唸るばかりの、そんな物語なのである。


そして明かされる、衝撃の(当たり前か…)真相。
詳しく書けないのが残念でならないが、これまたさすが、である。
そしてその真相以上に、グッと胸に突き刺さる、女たちの凄み。
ある種の恐ろしさと、また違う種類の切なさ、そして…
〝僕〟のこころに残る、複雑な想いが、あまりにも感慨深い。


で、その感慨深さに、絶妙の追い討ちをかけるのが、
例の、〝僕〟の相談に乗った新谷の告白「新谷君の話」である。
これを読んだ上で、また物語での新谷のくだりを読むと、また深い。
いやはや何とも…、となってしまうこと、請け合いなのである。


最高、かどうかは別にして、いかにも、らしい傑作。
読み終えて、思わずニヤリとしてしまう(悪趣味だが…)面白さ。
そんなわけで、つくづく東野圭吾の凄さを思い知らされたのだった。


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夜明けの街で
夜明けの街で
posted with 簡単リンクくん at 2007. 7. 5
東野 圭吾著
角川書店 (2007.6)
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