シネマート心斎橋で「恋愛睡眠のすすめ」

mike-cat2007-05-21



〝夢でもし会えたら 夢ではどこまでも幸せ〟
「ヒューマン・ネイチュア」「エターナル・サンシャイン」の、
ミシェル・ゴンドリー監督が手がけた最新作。
これまでのチャーリー・カウフマンの脚本作ではなく、
自らの脚本による作品ということで、注目も集まる。
夢と現実の区別がつかなくなった、
恋する男を描くファンタジック・コメディだ。
主演は「アモーレス・ペロス」「モーターサイクル・ダイアリーズ」ガエル・ガルシア・ベルナル
共演に「ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール」シャルロット・ゲンズブール
「読書する女」のミュウ=ミュウも、主人公の母親役で登場している。


メキシコから、少年時代を過ごし、いまも母が住むパリへ戻ってきたステファンは、
子どもの頃から、夢と現実の区別がどうも曖昧な、夢見がちな性格。
イラストレーターを志すステファンが就いたのは、創造性とは縁のないつまらない仕事。
ストレスから逃れるように、夢と妄想にのめり込むステファンはある日、
アパルトマンの隣室に引っ越してきたステファニーに気を惹かれる。
でも、やっぱり思うようにはならない現実に、ステファンはまたも夢に溺れていく―


この映画の最大の特長は、「ステファンTV」と題された、夢と妄想のワンダーランド。
段ボールと布きれ、セロファンで作りあげられた、チープかわいい世界が、
みているだけで思わず、ほわ〜んとなってしまうような、独特の雰囲気を醸し出す。
ステファンの発明した「1秒間タイムマシン」や「災害論カレンダー」、
特製の「3Dメガネ」に、「植物版ノアの箱舟」といったグッズの数々も、とてもファンタジック。
特にポスターにもなった、ぬいぐるみの馬「ゴールデン・ザ・ポニー・ボーイ」は、
文字通りのこの映画を象徴するような、ノスタルジックでロマンチックな代物だ。
少なくとも、このビジュアルだけでも一見の価値あり、という、
いかにもミシェル・ゴンドリー的なセンスを感じさせる、そんな映画である。


ただ、一方でそのストーリーともなると、やや微妙な部分を残す。
夢と妄想、現実が入り交じるという展開はカウフマンの脚本による作品と同様だが、
これまでは、その入り交じる中にもある程度の整合性というのは見て取れた。
だが、今回は最初から最後までそんな理屈はまるで無視。
ある意味、開き直ったかのように、思いつくがままの妄想世界を作りあげる。


いってみれば、物語世界はオープニングからラストまで、
すべてが夢そのもの、といっていいようなねじれ具合を呈している。
そんな部分も含め、それが狙いだ、と言われてしまうと反論のしようがないが、
そこまで開き直って作ってる、と気づくまでに時間がかかったせいか、
中盤まではどこまでが夢で、ここからが現実…、
なんて何の意味もない区別をしようと、ちょっと躍起になってしまう羽目になった。


そうやって考えてみると、この映画において、
ストーリーはそう大きなウェートを占めない、というのが正直な印象。
もちろん、現実の世界で疎外されているステファンの現実逃避とか、
安らげる世界の追求だとか、ロマンチックな恋愛だとか、そういう部分を含め、
まるでストーリーがないわけではないが、それ自体にはあまり意味がない、ということ。
ストーリーを追う映画と言うより、あくまでちょっと長めのビジュアル・クリップに感じられるのだ。


好きな俳優と好きな女優の共演だし、ビジュアルはかなり好きな類の作品ではある。
最初からビジュアル面だけを楽しみにしていればそれもよし、なのかも知れない。
だが、傑作「エターナル・サンシャイン」の後だけに、
期待が大きかったせいか、少々肩透かしされたような想いは否定できない。
ちょっと悩ましい気持ちを抱え、エンドクレジットを見つめるしかなかったのだった。