動物園前シネフェスタ4で「フリーダムランド」

mike-cat2007-02-26



東京より1カ月遅れで、動物園前での単館公開。
初めて訪れた映画館だったが、何でも3月末で閉館だそうで…
やはりTOHOシネマズなんばの影響はかなり大きいようだ。
まあ、オープン10年足らずにもかかわらず、
どことなく寂れた感が強い劇場だから、無理もないのだろうが。


〝消えた少年、目撃ゼロ、痕跡ナシ、
 唯一の手がかりは母親の証言だけ …何かが、違う。
 真実が呑み込まれていく、迷宮のヒューマンミステリー。〟
リチャード・プライス渾身の力作、
フリーダムランド〈上〉 (文春文庫)」「フリーダムランド〈下〉 (文春文庫)」を自身が脚色。
主演は「パルプ・フィクション」のサミュエル・L・ジャクソン
そして、「めぐりあう時間たち」のジュリアン・ムーア
監督は「アメリカン・スウィートハート」のジョー・ロスが務める。


ニュージャージー州デンプシー、
居住者は低所得の黒人ばかりのアームストロング団地周辺。
手を血まみれにした白人女性ブレンダ=ムーアが、病院に駆け込んだ。
黒人男性によるカージャックに遭ったというブレンダは、
車の中に寝かせていた4歳の子どもも誘拐されたと訴えた。
地域の〝顔〟でもあるロレンゾ・カウンシル刑事=ジャクソンの反対にもかかわらず、
団地周辺の封鎖という強硬手段に出た警察。
だが、それは住民の反感を買い、人種間の緊張を高めるばかりだった。
そして捜査が進む中、ロレンゾはブレンダが何かを隠していることに気づくが…


純粋なミステリー要素に加え、貧困や差別に対する怒り、人種間対立、
そしてメディアの暴走など、さまざまな要素を内包した原作は、
まさに〝アメリカの苦悩〟を描く、大作にして、傑作だった。
だが、文庫本上下巻で1100ページという大ボリュームを、
2時間足らずにまとめ上げるというのは、原作者による脚色でもやはり無理があった。


特ダネを追う記者ジェシーのパートが大きく削られただけではなく、
刑事ロレンゾ、息子を失ったブレンダらのドラマも、大幅にカット。
サスペンスとドラマ、そして社会的なメッセージと、盛りだくさんの内容だった作品が、
単にどっちつかずの薄っぺらい社会派サスペンスになりさがってしまった。
何より残念なのは、最大のテーマでもある、
アメリカ社会の病巣を、ただただ何の救いもなく描いただけなのに、
なぜかラストは〝いい話〟風にまとめてしまっている点だろうか。
もしかしたら、何らかのメッセージを見逃したのかもしれないが、
事件の苦い結末と、希望を持たせたラストの唐突さには、かなり戸惑う。


もちろん、サミュエル・L・ジャクソンジュリアン・ムーアの演技は、まさしく迫真。
ジュリアン・ムーアのエキセントリックな女性ぶりは、
痛すぎるほどにリアルだが、それはそれで、うまく効いていると思うし、
ジャクソン演じる悩める刑事は、圧倒的な存在感で、作品に重みを与える。
それでも、説明不足に描写力不足の脚本&演出の前ではそれも無駄骨。
終わってみれば、「で、何なの?」という思いばかりが胸に残る。


実際あの原作の味を出すには、
最低でも2時間半ぐらいは尺を取らないと無理ではなかろうか。
それと、もっとまともな演出家。
単純にストーリーをなぞるだけなら、何の価値もない。
俳優の力だけで、そこそこ観られるレベルにはなっているが、
原作の魅力を知る者からすれば、完全な失敗作、としかいいようがない。
フェスティバル・ゲートのわびしい風景と相まって、
何だか虚しさの残る映画観賞のひとときとなってしまったのだった。