TOHOシネマズなんばで「ディパーテッド」

mike-cat2007-01-23



〝男は、死ぬまで正体を明かせない。〟
香港ノワールの傑作と名高い「インファナル・アフェア」を、
ハリウッドの豪華キャストでリメイクした話題作だ。
警察に潜入したマフィア、マフィアに潜入した警察官、
過酷な使命を背負わされたふたりを描くサスペンス。
監督はマーティン・スコセッシ(スコシージ)、
主演はご存じレオナルド・ディカプリオマット・デイモン
ジャック・ニコルソンら実力派も脇を固め、万全の布陣だ。


舞台はボストン。
マサチューセッツ州警の組織犯罪課に配属されたふたりの男。
暗い生い立ちとの決別を図るビリー・コスティガン=ディカプリオは、
アイリッシュ・マフィアのフランク・コステロの身辺を探るべく、潜入捜査官を命じられる。
一方、そのコステロに育てられたコリン・サリバン=デイモンは、
特別捜査班の一員でありながら、コステロに捜査情報を漏らすスパイとなった。
互いの顔も知らないまま、すれすれの戦いを続ける2人。
だが、警察、マフィアの双方が〝ネズミ〟の臭いをかぎつけた時、本当の危機は訪れる−


実は、とんでもない手落ちなのだが、
オリジナルの「インファナル・アフェア」を観ていなかったりする。
よって、オリジナル版との比較、に関しては語ることはできない。
あくまで、真っさらな状態で観た上でのレビューということになるのだが、
同じくスコシージ監督の「グッドフェローズ」を思い出させる傑作だと思う。
一応、資本としてはハリウッドということにはなるが、
そこはスコシージ、ハリウッド映画の文脈とは違う、リアリズムに徹した作品に仕上げた。
脚本は「キングダム・オブ・ヘブン」を手がけたウィリアム・モナハン
パンフレットなどによると、基本のプロットといくつかのアイデア以外は、
比較的オリジナルなストーリーになっているらしいが、
その物語の緊迫感や〝なるほど〟のひねりはなかなか気が利いている。


出演陣に目を移すと、やはり際立つのはジャック・ニコルソンだろう。
演じるのは、実在したマフィア、ホワイティ・バルジャーをモデルに、
ゴッドファーザーのモデルともなった、フランク・コステロの名前を頂戴した人物だ。
「シャイニング」や「バットマン」のキレっぷりには及ばないが、
喜々としてやっているのは、スクリーンからも伝わってくる。
悪ノリ演技も散見され、多少やり過ぎ感は強いが、そこは圧倒的な存在感で押し切る。


ギャング・オブ・ニューヨーク」ではダニエル・デイ・ルイスに圧倒されたディカプリオは、
今回も、顔のデカさほどには存在感を示すことができなかった。
とはいえ、スコシージ映画の常連としては、まあいつも通りの出来だろう。
少なくとも、映画の雰囲気をぶち壊すような甘い〝スター〟ぶりは見られない。


デイモンは器の小さい、不実な悪人っぷりがハマっている。
野望に満ちた策略家っぷりと、困窮極まった時に見せる、唐突で利己的な行動。
リプリー」の時ほどの挙動不審ぶりには及ばないが、
「ボーン・アイデンティティ」とかの超人ぶりより、よほど似合っていると思う。
潜入捜査官を指揮するディグナムを演じるマーク・ウォールバーグも印象的だ。
地獄の黙示録」のマーティン・シーンとともに、信念の刑事を好演している。
主演作の「ブギーナイツ」や「ビッグ・ヒット」なども大好きだが、
この作品で見せた、やや中年に達した渋めの輝きは、またひと味違う魅力に映る。


ビリーとコリン、2人の秘密に翻弄されるマドリンを演じた、ビーラ・ファミーガもいい。
クライシス・オブ・アメリカ」などではあまり印象が残っていないのだが、
この作品では、深みのある碧い瞳がとても美しく、観るものの眼をくぎづけにする。
ほかにも「ニル・バイ・マウス」のレイ・ウィンストン(フレンチー)、
「ふたりの男とひとりの女」「バーバーショップ」アンソニー・アンダーソン
「レッドオクトーバーを追え!」が懐かしいアレック・ボールドウィンなど、
豪華なだけでは終わらない助演陣によって、物語にはさらなる奥行きがつけ加えられた。


152分の長尺をまったく感じさせない、サスペンスフルな物語は、
序盤からの緊迫感を保ったまま、終盤のクライマックスへと一気に突き進む。
思わず「オッ」と声が出そうになる展開、そして圧倒的なバイオレンス。
グッドフェローズ」の重厚感には及ばないが、十分すぎるぐらいの見応えは保証できる。
ということで、このレビューの中で何度も〝には及ばないが〟が出てきたが、
監督、出演陣それぞれに最高傑作とはいえないが、
ひとりひとりの代表作のひとつにはなりそうな、傑作ではあると思う。
いまさらながら元ネタの「インファナル・アフェア」、
第1作だけでも観ておかねば、と新たな決意を胸にしてみるのだった。