道頓堀東映パラスで「シリアナ」

mike-cat2006-03-06



午後イチの回を観に行く前に、
ネットでジョージ・クルーニー助演男優賞受賞を知る。
むむむ、なおさら観に行かないといかんではないか、と自然に力が入る。
監督・脚本は、「トラフィック」でアカデミー脚色賞に輝いたスティーヴン・ギャガン
製作総指揮にもスティーヴン・ソダーバーグジョージ・クルーニーが名を連ね、
まあ、ほぼソダーバーグ一家による、中東石油利権版「トラフィック」といっていい。


舞台は中東、ペルシャ湾岸のある産油国
米石油メジャーによる独占構造を改革しようと目論むナシール王子、
中国企業進出に目をとがらせる米石油メジャーのコネックス社、
カザフスタンでの採油権を手に、コネックスとの合併を進める新進企業キリーン社、
キリーン社の不正を知りながら2社の合併を進めるスローン・ホワイティング法律事務所、
司法省、そしてCIAまでを巻き込み、石油利権をめぐる虚々実々の駆け引きが始まった−。


群像劇の軸となるのは、
CIAの中東専門工作員ボブ・バーンズ=ジョージ・クルーニー
ジュネーヴに住む投機アナリストのブライアン・ウッドマン=マット・デイモン
コネックス、キリーン両社の合併を手がける法律事務所の弁護士ベネット・ホリデイ=ジェフリー・ライト
これにクリス・クーパークリストファー・プラマーウィリアム・ハート、ティム・ブレイク・ネルソンといった、
くせ者俳優たちが、企業、諜報機関、政府、利権に群がるさまざまな面々として、スクリーンをにぎわしている。
加えて、採掘施設で働く出稼ぎ労働者の視点も交え、
複雑怪奇に入り組む湾岸地域の石油問題を立体的に、そして多層的に描いていく。
率直にいって、やや見慣れない中東系の人々の顔の区別にはやや戸惑うが、
かなり複雑なはずのプロットを一気に見せつつ、それぞれのドラマも味わい深く描写するあたり、
トラフィック」でも見せた手腕が際立っている、なかなかグッとくる作品でもある。


オスカーに輝いたジョージ・クルーニーは、十数キロだか、数十キロ増量し、
たっぷりとしたお腹を揺らしながら登場、敵方にとらえられての拷問シーンでは、
脊髄損傷の重傷を負いながらの熱演だったという。
工作員ひと筋で国益のために尽くした男が、簡単に裏切られ、トカゲの尻尾よろしく切られていく。
その悲哀たるや、観ていてまことに何とも言えない気持ちにさせられる。
前述したくせ者俳優たちの演技も重厚にして、
いやホント「お主も悪よのお!」といいたくなるくらいの存在感。
この人たちのおかげで、マット・デイモンの青っぽさも逆に新鮮に映ったりして、またおかし、なのだ。


映画そのものは、もともとが爽快感に欠けるような話題だけあって、
複雑というか、まことに微妙な後味を残して、エンドクレジットに移る。
あくまで単館でかかるような作品だと思っていけば、うむうむとなるのだが、
ポスターのジョージ・クルーニーや豪華キャストに引かれて、
メジャー系のハリウッド作品として観に行くと、かなり肩透かしをくらうかもしれない。
その複雑な味わいたるや、何らかのカタルシスがあった「トラフィック」を遙かに上回る。
傑作という言葉を使うには微妙な面もあるのだが、どこか印象深い一本だった。